第93話 教えて理子さん part2

「さて、何から聞きたいかな?」


「理子さんについて、ですかね」


「いや~ん、そんなストレートに来られるとお姉さん困っちゃう~」


「清めの塩買ってここら辺にまきますよ?」


「冗談じゃ~ん」


 理子さんは俺の言葉を聞いてへらへらと笑う。実際塩って効果あるのか……?今度試してみようかな……?


「それじゃあ晴翔君の希望通り、私について適当に話していこうかな」


「お願いします」


「むか~しむかし、ある所に超絶可愛いおさげの少女がいました。その超絶美少女は家から近いからという理由でこの高校に通学していました」


 語り口調で説明が始まったことについツッコミを入れそうになったが、すんでのところで押さえて理子さんの話に耳を傾ける。


「その少女は可愛く、頭もよく、多くの人から愛され、それはもう学校のマドンナと言っても過言ではないほどに皆から好かれていました」


 ……自己評価すごいなこの人。生まれる時代が違えばかなりの自己承認欲求モンスターになっていたかもしれないな。


「しかし、そんな欠点が無いように思われた可憐な少女には一つだけ、人よりも何十倍も劣っているところがありました。……その子は、あまりにも体が弱かったのです」


 楽しそうに話していた理子さんの表情と声音が陰りを見せる。


「小さい頃から体が弱く、学校に行くのにも無理が必要なほどに病弱で、常日頃から苦しい思いをしていました。運動はもちろん出来ず、早退することも少なくありませんでした」


 理子さんはぼんやりと虚空を眺めながら、切ない表情で、それでいてとても大切な宝物を見ているかのような顔で話を続ける。


「ある日、少女は辛い気持ちを我慢し、学校へと足を運びました。体の調子が朝から良くない、今日は休んだ方が良いと頭で分かっていても少女は体に鞭を打ち家を出ます。何故そのようなことをしたのか、それは彼女が楽しみにしていた理科の実験があったからです」


 理科の実験……あぁ……なんとなく予想出来てしまった。


「実験の時間が来たと、心を躍らせながら理科室へと足を踏み入れたその時、その少女はばたりと倒れてしまいます。病弱であるにもかかわらず、無理をし過ぎたせいでしょう。その少女は実験に参加できずそのまま家に帰ることになってしまいます。ただ、それだけでは終わりません」


 俺は俯きながら話を聞く。この話に出てくる少女がどうなるのか、それが既に見えてしまっている俺にとってこれからの話は、少し辛すぎる。


「今までの無理が一気に押し寄せ、その少女は二度と学校に行くことが出来なくなってしまったのでした。はい、めでたくないめでたくな~い」


 パチパチと拍手をして話を終わらせる理子さん、重くなってしまった空気を切り替えるために彼女は、明るい声音で一人の少女の物語を締めくくる。


「とまぁ、何やかやあってその少女はこんな感じで幽霊になっちゃったってわけ。どう?これで超絶美少女の理子さんについては理解できた?」


「はい……理解できました」


 何かしらの後悔や恨みで幽霊が生まれるという話がある。その話に当てはめて考えると、おそらく理子さんは楽しみにしていた実験が出来なかったから、この学校の理科室の呪縛霊として魂だけがこの世に残ってしまったのだろう。


「話した私が言うのもなんだけどそんな暗い顔しないでよ~。そんなしんみりされると話しづらいでしょ?私はもうそんなに気にしてないんだから、晴翔君が気に掛ける必要は全くないんだよ~?」


「す、すみません……」


「うん、いいよ。はい、それじゃあ次は晴翔君の番だね」


「え、俺ですか?」


 突然話を振られ、俺の体はびくりと揺れる。


「そう、晴翔君の過去について。私も話したんだから詳しく話さないとだめだよ?」


「わ、分かりました。……それとちゃんと話すんで離れて貰っても良いですか?」


「えぇ~?私はこのままでも良かったのに……もったいないことするねぇ晴翔君は。こういう時は何も言わない方がモテたりするんだよ?」


「余計なお世話です」


 至近距離に迫ってきた先輩に離れるよう促すと、へらへらと笑いながらも距離を取ってくれる。至近距離で自分の過去について話すとか無理ですって。

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