第92話 教えて理子さん part1

 長いようであっという間だった夏休みを終え、再び学校での生活が始まる。8月も終わり、そろそろ過ごしやすい気温になって欲しいところだが、太陽は知らん顔で光と熱を放ち続け気温は夏とほとんど変わらない。残暑君、サービス残業しなくていいから帰ってくれない?


「おっす晴翔……」


「おはよう颯太……って随分と疲れた顔してるな」


「ああ……結局寝れたの3時過ぎだからな。ふわぁ……流石に眠いわ」


「3時って……余裕で終わる量だったのに、なんでまたそんな遅くなったんだ?」


 颯太の宿題を手伝った日、夕方まで手伝い続け、無事に7割まで終わらせることが出来た。これなら最終日に涙を流すこともなく、2学期を迎えられるなという話をしたのだが……。


「いやぁ……これなら余裕だ!ってだらだらしてたらいつの間にか終わりが近付いてた的な?」


「はぁ……先に終わらせてからのんびりしろよ」


「ま、間に合ったからセーフってことで……」


 頭をポリポリと書きながら笑う颯太を見て俺はため息を溢す。


「別にいいけどさ……この後テストだぞ?」


「……あっ」


 どうやら宿題のことで頭が一杯でテストまで目が行っていなかったらしい。既に散々な結果になる未来が見えてくる……。


「まぁ一応今回のテストは成績に反映されないし、補講とかもないらしいけど」


「まじ!?いや助かったぁ……2学期始まって早々終わるところだったぁ」


「……教科によってはテスト直しあるらしいけど……まぁ頑張れ」


「あっ、やっぱ助かってなかったわこれ」


 





「終わった……二つの意味で……」


 夏休み明けテストが終わり、颯太は絶望と疲れが混ざった顔で机に倒れこむ。この顔的にほとんどの教科であまり手が進まなかったのだろう。まぁ徹夜明けでテストを受けていい結果が取れるはずもないか。


「ほら……テスト直しはあっても2教科くらいだからさ、そんな落ち込むなって」


「ほとんどの問題が間違ってるから絶望してるんだよ……めんどくせぇ」


「ま、一旦テストのことは忘れようぜ」


「だな……そうだ、どっか遊びに……って思ったけど俺今日部活だったわ。はは、徹夜明けで部活とか普通に死ねるわ」


「oh……怪我しないように気を付けてな」


「気を付けるわ」


 どんよりとした顔で部活へ向かった颯太を見送る。さて、俺は帰ろうかな……ってそうだ、テストのことでつい忘れそうになってたわ。俺は荷物の整理をし、玄関ではなくあまり人の出入りが少ない場所へと向かう。


「鍵は……うん、空いてるな。それじゃあ失礼しまーす」


 やってきたのは理科室。この時間帯から理科室にやって来る人はほとんどいないだろうし、これなら理子さんとゆっくり話ができそうだ。


「理子さーん……あれ……理子さーん、いますかー?」


「いるよ~」


「おうっ!?机の中から急に出てこないでくださいよ……」


「いやほら、ただ登場するよりもこうして出てきた方が面白いでしょ?」


 悪戯な笑みを浮かべる少女に俺はジト目を向ける。そっちは面白いかもしれないけどこっちは普通にびっくりするんですよ。


「やぁやぁ晴翔君、久しぶりだね」


「どうもです。理子さんも元気?そうですね」


「元気だよ~?まぁ死んでるんだけどね!……ってそこは笑う所だぞ!」


「いやそう言われてもちょっと困るんですけど……」


 幽霊ジョークをお見舞いされ何とも言えない表情になる。人の死を笑うというのは流石に俺にはレベルが高すぎる。……た、高いのか?よく分からなくなってきた。


「はは、ごめんごめん。それで?今日はどうしたんだい?」


「色々と聞きたいことを聞きに来ました」


「この前は時間なかったもんねぇ。うん、いいよ。ゆっくりお話しよっか、適当に座って?」


「ありがとうございます」

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