第34話 尾行
「でさ、あの時──────」
「はははっ、やばお前」
分からないのなら調べればいい。そう考えた私は休み時間のほとんどを費やし、先輩の本性を探るべく先輩を尾行しています。
今のところは目立った成果はなく、一人の友人と非常に仲良く過ごしている姿が多く見受けられる。ただ友人が少ないというわけではなく、休み時間にはちゃんと他の生徒にも話しかけられていたため交友関係はそこそこあるみたいだ。
現段階で分かったことは先輩は普通の学生だと言う事。鈴乃ちゃんの様にキラキラしているわけでもなく、かと言って鈴乃ちゃんとは対照的な暗い生活をしているわけでもない普通の学生。先輩の私生活を見れば鈴乃ちゃんと兄妹だと言われるまでは全く分からないほど平凡な生活を送っている。
「でもまだ隠しているだけ。本当はめちゃくちゃ性格悪かったり、女たらしだったりするかもしれない。鈴乃ちゃんの目は誤魔化せても私の目は誤魔化せないんだから!」
その後も監視を続けるが、先輩が鈴乃ちゃんに害を成すかもしれないという要素はどこにも見つからなかった。本当に普通の、どこにでもいるような学生。友達と話して、ふざけあって、そんなありきたりだがとても充実している生活を送っている。
「むぅ……中々尻尾を出さないなぁ……今日は切り上げてまた明日頑張ろう」
それから私はしばらくの間先輩を尾行し続けた。休み時間を使って先輩が一体どんな人なのか、普段はどういう行動をしているのかを徹底的に調べ上げるために、そして鈴乃ちゃんに先輩が本当は悪人なのだと伝えるために。しかし──────
「先輩がただの良い人すぎて困る……」
私は頭を抱えた。数日の間先輩を監視するも悪いところは皆無、逆に良いところしか見つからなかった。
誰かが物を落とし床に散らかってしまったときは急いで駆け寄り手伝う。先生が多くの荷物を抱えて大変そうにしていたら何も言われずとも手伝う。そして普通の人がやりたくないなと思うようなこと、例えば授業終わりに黒板を消すなどの行動を自ら率先してやる。
先輩は普通の生徒だと言ったが前言撤回。あれは鈴乃ちゃんの兄だ。鈴乃ちゃんのようなスター性はないが人のために働いているという点では非常によく似ている。例えるなら名裏方のようなタイプの人間だ。いや、裏方とも言い切れないのかもしれない。
「伊藤さん、それ運ぶの手伝うよ。ほら颯太も半分持って」
「俺まで巻き込むんじゃねぇよ……まぁいいけど」
「ありがと晴翔君、颯太君」
先輩は何か困っている人がいれば助けてしまうお人好しだったのだ。それはもう私が引いてしまうくらいには。現実世界にこんな善人がいるのかとちょっと疑ってしまうレベルで毎日人助けをしている。そんな彼を好ましく思う人の方が多いのは明白。先輩はクラスの人からの信頼が多く寄せられていた。
しかも先輩のすごいところは妬みや嫉みなどの感情をほとんど受けていないのだ。人助けをして周りの人から好かれても調子に乗らず、それでいて自分のことを苦手だと思っている人に対しても分け隔てなく接してきた結果の賜物だろう。
「ねぇねぇ美優は気になる人とかいないの?」
「えぇ?そういうの聞く前に小春が答えなよ~……でもそうだなぁ強いて言うなら晴翔君とか気になってるかな。すごく優しいし付き合ったらめちゃくちゃ甘やかしてくれそう」
「まじ?まぁ確かに気持ち分かるけど。ちなみに私は隼人君」
「小春も〜?やっぱ隼人君は人気者だねぇ」
男女問わず信頼と一定の人気を勝ち取っている先輩の姿を見て、血の繋がっている兄妹よりも似ているのではないかと思えてきてしまった。
もう既に先輩が悪人である可能性は薄い。そしてそれを決定づけるのは先輩と鈴乃ちゃんとの間に生まれる空気感だ。あれは完全に仲の良い兄妹間でしか発生しないものだ。安心感と信頼感、その値が上限にまで達しているどころか溢れ出している。鈴乃ちゃんの表情から見て先輩のことを完全に信じ切っているのが見て取れる。
「運ぶの手伝うよ、理科準備室だっけ?」
「う、うん。ありがと高橋君」
今も物を運ぶのを手伝っているし……私の早とちりだったかぁ。
自分の直らない悪癖にはぁと大きくため息を吐く。変に妄想して、そのまま突っ走ってしまうのが私の昔からの性格。直さなければと思っていても結局のところ直らない。先輩云々を言う前にまずは自分の
「はぁ……」
「そんなに大きなため息を吐いてどうしたのですか白川さん」
「ひょえ!?……す、鈴乃ちゃん?」
指でそっとなぞられた時の様に私の背筋がピンとなる。慌てて後ろを振り向くとニッコリと微笑みを浮かべている鈴乃ちゃんの姿があった。
なんか鈴乃ちゃんの纏っている雰囲気がいつもと違う気がするんだけど……か、勘違いかな……?
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