第73話 阻止しなきゃ

 海を満喫し、いつもの日常が戻る。久しぶりに海に行き、夏っぽいイベントを消化し終えた俺はすっかり家に引きこもっていた。


「鈴、あんまりくっつかれると暑いよ?」


「エアコンついてるから平気だよお兄ちゃん」


 鈴乃も今日は家に籠る日なのか、こうして俺にくっついてきている。エアコンはガンガンに効いているが、こうして密着しているとやはり暑く感じてしまう。


「それにこたつに入って食べるアイスって美味しいでしょ?似たような感じだよ」


「に、似てるか・・・・・・?」


「もう、細かいことはいいでしょ!」


「そ、そうね」


「うん・・・・・・えへへ〜」


 少し声を荒げた鈴乃、彼女の機嫌を戻すべく頭をそっと撫でるととても嬉しそうな声をあげる。うん、可愛いからなんでもいいや。


「んふふ〜今日はお兄ちゃんとずっと一緒にいられる〜」


 鈴乃はぐりぐりと頭を擦り付けてくる。


「あぁー・・・・・・実は今日夕方から用事あるんだよね」


 ピタリと鈴乃の動きが止まる。そしてかなりの速度で顔を上げる。


「誰とどこいくの!?」


「ちょっと文芸部の集まりがあるんだ」


「文芸・・・・・・部・・・・・・?」


「う、うん・・・・・・」


 ど、どうしてそんな首を傾げたままフリーズしてるんですか?ちょっとどころではなく怖いんですけど!?


 先ほどと同様に体がピクリとも動かなくなってしまった鈴乃を見て俺の体はぷち恐怖に包まれる。まだ肝試しは始まってないというのになぜこんなに悪寒がするんだ・・・・・・。


「ち、ちなみに何するの?」


「んーあんまり言わない方が良いんだけど鈴ならいっか。実は文芸部で学校の七不思議の調査・・・・・・まぁ言っちゃえば肝試しをすることになったんだよ」


「肝試し・・・・・・」


「そう、だから夕方から夜までいないかな」


「それ私も行く!!」


「い、いやぁ流石に無理じゃないかな?」


 そ、そんなに鈴乃ってホラー好きだっけ?そんなに食いつかれるとは思ってなかったんですけど・・・・・・?





 今日は一緒にいられると思ってたのにまさか魔の手がすぐそこまで迫っているなんて・・・・・・。


 別にお兄ちゃんが肝試しに行くこと自体は問題ない。お兄ちゃんと一緒に居られなくで悲しいのは事実だが、後でその分甘えれば良いだけだからだ。


 しかし、それは男友達と一緒に行く場合のみに限る。それが文芸部となれば話は変わってくる。


 私は学校ではかなり顔が広い。そのため文芸部の部員がお兄ちゃん以外全員女の子であることを知っている。


 吊り橋効果という言葉があるように、この肝試しをきっかけにお兄ちゃんを狙い始める人が現れるかもしれない。そんな場所にお兄ちゃんを快く送り出せる筈がない。


 そして何より文芸部には茜先輩がいる。あの人は危険だと私の第六感が叫んでいるのを感じる。


 絶対あの人お兄ちゃんのこと好きだよ!あんなベタベタベタベタお兄ちゃんにくっついてさ!?あからさまに意識させに行ってるじゃん!!


 仮に他の女子部員がお兄ちゃんのことを狙っていなかったとしても、茜先輩は確実にお兄ちゃんとの距離を詰めてくる。


 それに文芸部での活動ならこれを企画したのも茜先輩だよね?・・・・・・もう絶対狙ってるじゃん!確信犯じゃん!!


 文芸部の先輩という立場を使ってお兄ちゃんに近づこうとする女狐め!そんな浅はかな考えなんてお見通しだよ!絶対、絶対にお兄ちゃんは私が守るんだから!


「す、鈴・・・・・・ちょっと痛いよ?」


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