第55話 突然の裏切り
無事に体育祭が終わり、クラスは既に夏休みムードに入っていた。周りからは夏休みの予定の話がちらほら聞こえてくる。1ヶ月もの間宿題を除けば勉強という難敵と向き合わず、自分のしたいことができる嬉しい楽しい素晴らしいという「3しい」が揃った期間なので浮かれてしまうのも致し方ない。
陰キャの俺ですらこんなに嬉しいのだから陽キャたちは尚更嬉しいだろうなぁ。
「あぁ……部活多すぎぃ……」
一部の運動部に所属している生徒を除いて。
「まぁ……どんまい」
絶望の表情を浮かべて机に張り付いている友人の姿を見て、俺は苦笑と共に励ましの言葉を送る。
「せっかくの夏休みなのになぁんでいつもと学校にいる時間が変わらないんだよ」
「ま、まぁ熱中症の警戒とかで部活動の日数が幾分か減ると思うから……」
「それで半分くらい無くなってくれまじで」
「すまん高橋、今ちょっといいか?」
ダラダラと適当に話しているとクラスメイトに声をかけられる。
「先言っとくけど鈴……妹に関することなら俺は何もしないからな」
「そこを何とか」
「無理」
体育祭で「俺、鈴乃のお兄ちゃんです!!」と声高らかに宣言した結果、クラスを跨いで色んな男どもから鈴乃との間を取り持ってくれないかという話がたくさん飛び込んできた。
「テメェ……舐めてんのかぁ……?」という怒りの気持ちを感じながらも、話を持ちかけてきた奴全員にお断りを入れる、という作業を淡々とこなすのが日課になってきましたが、私は元気です。
一応断るときに手伝わないって他の奴にも伝えてねと言っているのだが、まだ一定数頼みに来る奴がいる。俺に何回も来るぐらいなら鈴乃のとこに直接行けよとは思う。まぁ鈴乃のとこに行ったら行ったで俺はそいつをブラックリストに即ぶち込むことになるが。50年くらい男磨きしてから出直してこい、話はそれからだ。
「いやぁ……大変だね、お兄ちゃんは」
「お前にお兄ちゃんって言われても嬉しくないどころか気持ち悪いからやめてくれ」
「ひっでぇ」
元はと言えば颯太がいなかったのが原因なのだが……それについて抗議してもただ「理不尽すぎるわ」と正論をぶつけられて終了する未来が見えるので、何も言わず心の中で愚痴を言うに留めておく。
「いっそのこと体育祭で、妹との間は取り持ちません!って言っとくべきだったか?」
「いや、しなくて正解だったと思うぞ」
そう言うけどいちいち対応するこっちの身にもなって欲しい。愛しの妹に近寄ろうとする野郎共の顔を見ないといけないんだぞ!?お前らみたいに俺経由で鈴乃と仲良くなろうとする奴らを俺が認めると思うか?認める訳ねぇよなぁ!?(食い気味)
「すんませーん、ちょっと今いいですかー?」
怒りを心の中でゴリゴリ噛み砕いていると数学の先生が教室に入ってきた。一体何事だろうとほとんどの生徒の視線が先生へと向く。
「このクラス丸つけが遅れちゃって、今から期末返そうと思うんですけどいいですか?」
「大丈夫です!」
「いや本当に申し訳ないっす。それじゃあ名簿順に取りに来てくださーい」
室長がクラスを代表して返事をすると早速期末試験の返却が始まった。まぁ今回の試験も大きな問題はなく60点前後をキープできているだろう。問題は……
「颯太、お前今回のテストやばいって言ってたけど大丈夫なの?」
「はは、大丈夫じゃないに決まってんじゃん」
「そんな笑いながら言われても……」
テストの右上に書かれている「67」の点数を見て俺は納得するように小さく頷く。俺の予想通り60点台をキープ。まぁこんなもんでしょう。さてさて本題は───────
「颯太……どうだった…?」
「あぁ……全然赤点だった。終わった」
「まぁ…どんまい」
俺は颯太の肩にポンと手を置いて励ましの言葉をかける。
「まぁ今回赤点だった人なんですけど……まぁ先生も悩みました。どうしようかなって」
息を呑みながら先生の言葉を待つ颯太。そんな真剣な顔しなくても……
「特別課題を出すか、補講か。んでまぁ悩んだ結果、先生丸付けするの面倒なんで補講にしました。どうせ夏休みも先生部活で学校に来ることになるし」
まだ希望を捨てていなかった颯太の顔が一気に絶望したものへと変わる。二者択一、どちらにしても地獄ではあるがかなりめんどくさい方がやってきてしまったと俺も同情の念を抱いてしまう。
「まぁ日程とかは後で係の人経由で伝えるのでその時にまたお願いしまーす」
「せ、先生!」
「お、どうした颯太」
なんと数学の先生、男子バレー部の顧問なのである。その伝手を利用して何とか補講を免れようと颯太は先生の元へと駆け寄り迫真の表情で訴える。
「どうか……どうか補講だけは……」
「お前もどうせ部活で学校に来るんだからいいだろ…」
「ぐぬぬ……ちなみに他のバレー部で赤点とった奴っています?」
「プライバシーもあるから言いたくないんだが……まぁ颯太だけだな」
「俺だけっすか!?ちょ、まじでお願いします何とかなんないっすか!?」
「ならんなぁ。赤点取っちゃったから大人しく補講を受けてもらうしかないな」
「マジすか……あっ!じゃあついでに晴翔にも補講受けさせてください!」
「はいっ!?!?」
苦笑を浮かべながら颯太と先生のやり取りを見ていた俺にいきなり銃口が向けられ、思わずその場に立ち上がってしまう。おいおいおいおい、これは一体どう言うことだってばよ!?
「一人で数学を勉強するなんて俺に出来ると先生は思いますか!?無理ですよね!?ならばせめて晴翔と一緒に受けさせて下さい!!」
「そんな堂々と言われてもなぁ……高橋、颯太はこう言ってるけど……受ける?補講」
「受けないですよ!そんな軽いノリで補講受けさせないでくださいよ!」
「俺は晴翔が一緒に来ないと補講受けれないっす!!」
何でお前がそんな主導権握ってんだよ!?
何故か堂々と先生と交渉する颯太に俺はジト目を向ける。何故赤点をとったお前がそんなに偉そうにしてるんだよ。颯太が赤点を取ったから今こう言うことになってんの理解してんの???
「なんで颯太が偉そうにしてんだよ……すまん高橋、一緒に補講受けてやってくれないか?」
「頼む!この通り!!」
顔の前で合掌し頭を下げる颯太と困った表情で俺にお願いをしてくる先生。まさかそこの二人が手を組むことになるとは思いもしませんでした。
「はぁ……分かりました」
「すまん高橋、助かる。あ、それと点数に間違いあった人はできれば今日中に声をかけてくれると助かりまーす。それじゃあ失礼しましたー」
そう言い残して先生は教室から出て行ってしまった。……な、何故俺まで夏休みに補講を受けないといけないのか……はぁ。
「え、えーと……すまん晴翔…って痛っ!!」
「これで許してやるよ」
俺はとりあえず申し訳なさそうにしている颯太の頭をチョップし、この世の理不尽へのストレスを発散した。げ、解せない……。
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