第135話 お化け屋敷(本物)
「ん?あれは……」
「何か見つけたのかい晴翔君……ってあの子私の事すごく怖がってた子じゃないか」
展示物を見ながら校内を歩いていると青葉と文芸部の……というより青葉の後輩達を発見する。理子さんも青葉のことは覚えているらしいが覚え方がかなり雑である。いやまぁ間違ってはいないんだけどね。
「流石にあなた達のお願いでも了承し難いのだけど……」
「お願いします青葉先輩!一緒に入りましょう!!」
青葉たちから視線を少しずらすとそこには血を彷彿とさせる赤色で書かれた「お化け屋敷」の文字があった。状況と聞こえてきた言葉から察するに一緒にお化け屋敷に入りたい後輩vs怖いから絶対にお化け屋敷に入りたくない青葉の仁義なき戦いが繰り広げられているのだろう。
「そこを何とか……あ、高橋先輩!」
「あ、ばれちゃったねぇ」
一人が俺の名前を呼んだことで青葉を含めた全員が一斉にこちらへと振り向く。そんな餌を見つけた犬猫じゃないんだからそんなに俺のことを見なくても良いと思うの……。
「お、お疲れー」
俺は手を振りながら挨拶を返す。出来ることならこのまま素通りしたかったのに……滅多に顔を合わせないというのにどうして彼女らは俺の存在に気が付いたんだ……。
「あ、そうだ青葉先輩!高橋先輩と一緒にお化け屋敷に入るのはどうですか?」
「はい?」
突然の提案に俺氏困惑。どうしてたまたま通りがかっただけなのにお化け屋敷に連行されないといけないのか。というかホラー苦手な青葉が了承するわけ──────
「……ならまぁ考えなくもないわ」
「えぇ……?」
先ほどまでの拒絶具合はどこへやら、それなら良いわと意見を180度転換させる。俺とお化け屋敷に入ろうが後輩と入ろうがどっちにしろ怖さは変わらないと思うんですけど?
「だそうです高橋先輩!これはもうお化け屋敷に入るしかないです!」
「いや入るしかないってことは無いんだけどね?」
よく分からない理論を展開し始めた後輩女子に俺は正論という名の冷や水を掛ける。俺じゃなくて君たちが一緒に入れば良いでしょ!一般の通行人をいざこざに巻き込むんじゃありません!ほら、理子さんも言ってやってくださいよ、まぁ彼女らには聞こえないんですけどね!
「いいんじゃなーい?まだ時間はあるんだし、ちょっとくらい付き合ってあげても問題ないでしょ?」
何という事でしょう、味方だと思っていた理子さんによる突然の裏切りが行われました。そこはさっきみたいに「私とのデート中でしょー?」的なことを言って欲しかったんですけど……。
「ほら晴翔君、早く行った行った」
「はぁ……分かりましたよ」
俺は理子さんへため息で返事をし、青葉たちの提案を了承する。まぁ本日の主役である理子さんに行けと言われたら断れないし、ここは適当にやり過ごすとしましょう。
「ふっふっふ……晴翔君、お化け屋敷楽しんできてね」
「……」
にやりと笑った理子さんに嫌な予感メーターが勢いよく動き始め、そのままメーターを振り切ってしまう。お化け屋敷という暗闇、俺と青葉のペア、そしてにやにやと笑う理子さん……どっかで見覚えがあるような……。
「ひっ!?」
「ぐほっ!」
予想的中、お化け屋敷に入ると俺のわき腹が青葉の手によってダメージを負うことになる。本来であれば「わー怖かったねー」と雰囲気を楽しめる程度の怖さに設定されているはずだが、なんと今回に限り難易度がMAXにまで跳ね上がっております!!嬉しくない!!
「ご、ごめんなさい晴翔君……」
「ああ、うん大丈夫だからそんなに気にしな──────」
ガタガタッ!
「ひぅ!?」
話している最中だというのに設置されている飾りが独りでに動き始める。俺はその原因が分かっているためあまり怖くないのだが、青葉にとっては突然物が動き始めたためかなり恐ろしく感じているだろう。なんなら驚かす側の生徒も怖がってる声聞こえるし……。
「とりあえず早く出るか」
「ま、待って……その……て、手を繋いでもらってもいいかしら?」
「……分かったよ、ほら」
後々の事を考えてあまり手を繋ぎたくはなかったのだがやむを得ない、俺は青葉の手を軽く握り暗闇の中を歩いていく。
その後も普通であれば動かせそうにもない場所ににある物が動いたり、お化け屋敷側の仕掛けとは別の所で音が鳴ったりと色々な心霊現象()はあったが無事にお化け屋敷を抜け出すことに成功する。いきなり高いところにある飾りが動き始めた時はさすがにびっくりしました。
「あ、お疲れ様です青葉先輩、高橋先輩!どうでしたか!?」
「ああ……うん、すごかったよ?」
「そうね……想像以上に怖かったわ」
情けないところを見られたくないのか、青葉は普段通りの態度で後輩たちに接している。先ほどまで生まれたての小鹿の様にプルプル震えていたのが嘘みたいだ。
「いやぁ~楽しかったよ~。晴翔君も楽しめて貰えたかなぁ?」
大満足の笑顔を浮かべながら壁をすり抜けてきた理子さんに俺はジト目を向ける。今すぐにでも文句を言いたかったが青葉たちの目もあるためこの場を離れてから文句を垂れるとしよう。
「それじゃあ俺は用事があるから、またな」
「あ、うん。巻き込んでごめんなさい晴翔君」
「お疲れ様です先輩!」
俺は足早に青葉たちから離れ人通りが少ない場所へ移動する。
「はぁ……予想はしてましたけどやりすぎじゃないすかね?」
「えぇ?そうかなぁ?本物のお化け屋敷ならあれくらい普通そうだけどね」
「お化け屋敷を運営する側も怖がってましたよ……」
にやにやと笑顔を浮かべながら顔を覗いてくる理子さん。うん、楽しそうで何よりです。
「いやぁ面白かった面白かった!最後に晴翔君をびっくりさせることが出来て良かったよ!」
「ん?最後?」
理子さんの言葉に俺は疑問を抱く。どうしてこれが最後なのだろうか、確かに終わりは近づいているが文化祭自体もまだ時間はあるし……一体どういうことなのだろう。
「ん?あー……お化け屋敷とか肝試しとかで晴翔君を驚かせる機会なんてもうないでしょ?だから最後に幽霊っぽいことが出来て良かったなぁって思ってね」
「ああ、なるほど。確かに学校での肝試しなんて中々出来ないですからね」
「そうそう」
茜先輩が引退したら俺も文芸部に居る必要はないし、もし仮に来年肝試しを行うにしても俺は参加することはない。そう考えれば最後ってことになるのかもしれない。
「でも来年もお化け屋敷やってるかもしれないですよ?」
「ふふ、そうかもしれないね。もしそうなったらまた全力で驚かしてあげるよ」
「……お手柔らかにお願いします」
遅くなりました!ごめんね!!!
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