第134話 たまたまなんですよ
「ん~お腹いっぱいだぁ」
ご飯を食べ終えた俺と理子さんは少し休憩した後、理科室を出た。とは言え目的地は決まっておらず、ただゆったりとした足取りで廊下を歩いていた。
「お祭り感味わえました?」
「うん、もう今すぐに法被を着て踊り出したいくらいには体がお祭りお祭りしてるよ!」
昼食を食べ終えた理子さんはとても満足した表情を浮かべていた。彼女の要望に応えるべく選んだ食べ物たちはしっかりと理子さんを喜ばせることが出来たらしい。ちなみにお祭りお祭りしてるって何?
「こんなにたくさんのご飯を食べれたのは初めてだよ」
「胃もたれとかしてませんか?」
「全然してないよ、私のこの若々しい体を舐めないで欲しいね」
「なら良かったです。さて、次はどこに行きましょうかね」
「そうだなぁ……ミスコンまでは時間あるもんね?」
ミスコンの開始までは大分時間に余裕がある。とはいえまだ見ていない場所を見に行くにしても全てを見に行けるわけほどの余裕があるわけではない。理子さんの見たいものがあれば迷わずそこへ向かうのだが、おそらくこの人は特にないか、晴翔君が決めてよ的な事を言うだろう。
「晴翔君の行きたいところでいいよ?私はそれだけで十分楽しいから」
ですよねー……絶対そう言うと思ってましたよ。
「うーん……」
理子さんが楽しめそうな場所を考えてみたが、射的みたいな遊びを理子さんは出来ない事を踏まえてやはり美術部や書道部と言った文化部の展示を見に行くのが良い気がする。それに俺一人だけでアトラクションをやるのはちょっと恥ずかしいからね、まだ一人で展示物を見てる方がダメージ少ないのです。
「あれ?おに……兄さん?」
「鈴?」
聞き覚えのある声の方に体を向けるとそこには鈴乃と白川の姿があった。
「どうもです先輩」
「ああ、うん。昨日ぶりだね」
嬉しそうに笑顔を浮かべる鈴乃とは対照的に白川は親の仇と言わんばかりに俺を睨みつける。おそらく「私と鈴ちゃんの時間を邪魔するな!」とでも思っているのだろう。違うんですよ白川さん、狙った訳じゃなくて単なる偶然なんですよ本当に。
「お兄ちゃん、今日はお友達と回る予定だったよね?」
鈴乃は周りに人がいないかキョロキョロと確認した後、普段通りの砕けた口調に戻す。
「あぁ……今から合流するところだったんだよ」
「そうだったんだ。……もしかしたら一緒に回れると思ったんだけどなぁ」
小さな呟きは白川も聞こえていたらしく、「今すぐここから立ち去ってください!」と言わんばかりのジト目をこちらへ向けてくる。たまたま鉢合わせただけだからそんな顔でこっち見ないで?ごめんて。
「そ、そうだ。鈴に渡したい物があるんだった」
「私に?」
「そう、ちょっとごめんな」
きょとんとした顔で首を横に傾けている鈴乃に一つ断りを入れて俺は彼女のさらさらとした黒髪に触れる。一瞬ピクリと体が揺れたが気付かないふりをして、先ほど買った髪飾りを手早くつける。早めにここからいなくならないと白川からの視線が痛いからね……。
「これは……」
「さっき手芸部で買ってきたんだ。鈴に似合うと思って……うん、やっぱり似合ってる」
俺じゃなくて理子さんが決めた。なんてことは口が裂けても言えないので心の底にしまっておくとしよう……。何も嘘をついているわけではないですから、鈴に似合うと思って買いましたから。
「わぁ……ありがとお兄ちゃん!すごく嬉しい!」
「どういたしまして、すごく可愛いよ鈴」
俺は鈴乃の髪を乱さないよう丁寧な手つきで頭を撫でる。目を細めとても嬉しそうにする鈴乃を見ると心が癒される……うちの妹可愛すぎないか??
「それじゃ俺は待ち合わせしてるから。邪魔してごめんな白川……?」
とても幸せそうにしながらスマホのカメラで髪飾りを確認している鈴乃を見て今がチャンスだと思った俺はこの場を離れようとする。白川に一つ謝罪を入れておこうと思ったのだが白川は先ほどと同じような目で俺の左手首を指さしていた。
早く行った方が良いですよ
読唇術があるわけではないが、分かりやすく口を開いてくれたため彼女の言わんとしていることが分かった。おそらく白川はこのブレスレットが女の子に選んでもらったものだと思っているのだろう。うん、大正解です。
鈴乃もこのブレスレットの存在には気づいているだろうが髪飾りのおかげでまだ深く追及してきてはいない。ならば俺のとる行動はただ一つ。
「じゃあまた後でな鈴」
「あ、うん!また後で!」
俺はこの場をクールに去るぜ……いやぁ何も言われなくて良かった良かった。
「鈴乃ちゃんの喜ぶ姿を見れて良かったね晴翔君」
「はい、選んでくれてありがとうございました」
「んーん、気にしなくていいんだよ。あ、それと鈴乃ちゃんに何も聞かれなくて良かったね?」
にやにやとした笑みを浮かべながら俺の前に立ち塞がる理子さん。理子さんも白川の口パクを読むことが出来たのだろう。表情がひっじょうにうざい。
「今晴翔君は私と秘密のデート中だもんねぇ?」
「はいはい、そうですね」
「ちょっと!その反応は酷いんじゃないかなー?」
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