第136話 ステージ


「ちょっと早かったみたいだね」 


「みたいですね」


 俺と理子さんはミスコンを見るべく体育館へやって来たのだが、少し早く着きすぎたらしく軽音部によるライブがまだ行われていた。


「でもこれはこれでいいタイミングだったかもしれないですね」


 どうやら次が最後のバンドらしく、この「マダラ」という3年のバンドが一番校内で人気があるみたいだ。パンフレットに最後の勇姿を見届けろ的なことが書かれていたのできっと実力もあるバンドなのだろう、とても楽しみだ。


 俺と理子さんは人が少ない角の方へと移動する。この人の少なさであれば独り言を聞かれる心配もないだろう。それにこの後会場は騒がしくなるし、俺のことを気にする人なんていないはずだ。


 しばらくして俺の予想は見事に的中、演奏が始まると同時に会場は熱気に包まれ会場にいる全ての人間がステージの方へと意識を引っ張られる。


「わぁかっこいいね~」


 今までの集大成と言わんばかりに華麗な演奏を披露する。その姿は普段の姿の何十倍もカッコよく見えることだろう。もしかしてバンドを始めたらモテるのか……?いや多分楽器を弾けなくて挫折するんだろうな。


 皆の視線を釘付けにしている彼らは皆が知っている有名な曲や今流行っている曲を歌い奏でる。多くの生徒がその曲を知っていることから観客のほとんどが身体を揺らしたり跳ねたりと、とても楽しそうに音楽を聴いている。


「今日は来てくれてありがとー!!最後の曲も盛り上がっていくぞー!!!」


 ボーカルの声に体育館の熱が一段階上昇する。彼らが最後に演奏したのは少し前に人気が出た青春をテーマにした明るめの歌。失敗や失恋、友情やくだらない日常など今しかないこの時を全力で楽しもうといった如何にも高校生に刺さりそうな曲である。


「……いい曲だねこれ」


「青春って感じの曲ですからね」


 曲も終盤が近付いてきた頃合いに理子さんが微笑みながら、それでいて羨ましそうな眼差しをステージに向けながら声を漏らす。


「晴翔君は冷めてるね~。もっと前の人達みたいに音楽に合わせて揺れるとか、そういうのしてみたらどう?」


「俺にはそういうの似合わないっすよ」


「そんなことはないよ、君は青春を絶賛謳歌中の高校生じゃないか」


「年齢と見た目は高校生ですけど中身はおっさんですよ?流石に無理がありますって」


 前世の年齢を足したら俺は余裕で30を超えている。そんな俺が今更青春っぽい事をするとか……ベッドの上で自分の言動に悶絶する未来しか見えないんですけど。


「確かに君は前世の記憶がある。けれどそれは今の時間を……青春っていう物を楽しんじゃいけない理由にはならないと思うよ」


 聖母のような優しい微笑みを浮かべて俺に言葉を並べる理子さんは普段とは違い、とても大人びていてそれでいてとても儚く見えた。


「……まあ考えておきますね」


「そこは素直に分かりましたっていう所だぞ~?」


 曲も最後の盛り上がりを見せているからか理子さんはこれ以上は追及せず、音楽に集中する。俺も理子さんと同じようにステージの方をぼうっと見ながら音に耳を傾ける。


 青春っていう物を楽しんじゃいけない理由にはならない……ねぇ……。


 俺は理子さんの言葉をゆっくりと咀嚼しながら同じように音楽に耳を傾ける。普段は何とも思わないはずなのに、今だけは歌の言葉が耳の中をチクチクと突き刺さる。この曲が流れている少しの時間では理子さんの言葉を飲み込むことは出来なさそうだ。


 




「さぁお次は皆さんお待ちかねのミスコンの時間がやってまいりました!!」


 ライブが終わり熱狂冷めやらぬと言った会場の熱をさらに上げるべく、司会進行の人がミスコンの開始を告げる。司会進行の思惑通り、会場は大きな歓声と一部男子の発狂する声や叫び声に包まれ、一段階ギアが上がったかのように会場は盛り上がりを見せる。


「それではエントリーNo.1!……と言いたいところですが簡単な注意事項と説明があるのでしばしお待ちを」


 司会により簡単な注意事項やミスコンの説明などが行われていく。端的に言えば節度を持って楽しもうねという内容だ。


「そして、今回のミスコンの投票はスマホを用いて行います!現在スクリーンに表示されているQRコードを読み取ると投票サイトに飛びますのでそこで投票をお願いします。それでは参加人数も多いので早速行きましょう!エントリーNo.1──────」


 多くの人がスマホのQRを読み取ったのを確認した司会は早速参加者をステージに呼びミスコンを進行させていく。


「ミスコン鈴乃ちゃんは出てないのかい?」


 ミスコンが順調に進む中、理子さんは疑問を投げかけてくる。


「出ないって言ってましたね。元々鈴は人見知りだったのでこういうステージに立つのあんまり好きじゃないと思うんですよ」


「へぇ~そうなんだぁ……ってちょ、晴翔君あれ!……あははは!!」


 理子さんが指を差した先には上半身裸で下には超かわいいひらひらのスカートを履いた筋肉ムキムキの男子生徒がいた。


「鍛え上げられた肉体で人々を魅了する!かわいい?かわいいだろ!!皆俺…じゃなくて私に投票してね!エントリーNo.29!!Ms.筋肉さん!!」


 ふざけた名前で出てきたのはふざけた格好をした運動部のやべー奴。可愛らしく両手で手を振ったかと思いきや次の瞬間にはボディビルダーのようなポーズを取り始める筋肉さん。しゅ、シュールだ……。


 会場は笑いと何故か黄色い声援に包まれる。もうちょっと男からの野次が飛んでくるかと思ったが、飛んできたのはまるでアイドルでも見たのかと言わんばかりの女の子の声だった。


「あははは!いやぁすごい面白いねぇ。さっき出てきた男の子は本物の女の子みたいだったけど今回は別の方向で来たね」


「ですね、いやぁ……中々にひどいなこれは……」


「それではMs.筋肉、ありがとうございました!!いやぁ……いい筋肉でしたね。正直次に出てくる方が少し心配ではあります。が、そんな心配は必要ないのかもしれません!彼女の可愛さには誰もが魅了されることでしょう!エントリーNo.30!椎名柚香!!」


 いや筋肉の次やないかい!!すごい順番になったね!?


 ムキムキマッチョマンの次に出てきたのは俺を誘った本人である柚香だった。ステージ袖から出てきたのは小悪魔の衣装に身を包んだ柚香だった。もちろん会場は熱狂的な声を上げる。あちこちで可愛いという声が響いていることから先ほどの筋肉のインパクトに負けていないことが伺える。


「みんな―!私に投票し・て・ね?♡」


「うおおおおおおおおおお!!」


 特に男子からの人気がすごく、今日だけで彼女のファンクラブが出来てしまうのではないかと思えてしまうほどだ。これ俺見に来る必要性あった……?


「もしかして晴翔君を誘ったのってあの子?」


「そうですよ、鈴のクラスメイトです」


「そうなんだぁ……すごい人気だね」


「正直引いてます」


「こら、そんな顔しない」


 理子さんに注意を受けるほどの顔をしていたらしい。だってこれは流石に……ねぇ?



体調崩したり忙しかったりで遅くなってしまいました……。申し訳ない!

来週からは元に戻ります!文化祭もも少しで終わりだぁ……。本当にいつも応援ありがとうございます。



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