第22話 文芸部のヤバいやつ

 茜先輩との出会いは去年の丁度この時の事である。


「そいや晴翔って部活入らないの?」


「んー……今のとこは入るつもりないかなぁ。颯太はもう決めたのか?」


「中学から引き続きバレーよ」


「中学ん時から思ってたけど運動部の人ってよく続けられるな。俺だったら途中で折れそうになるわ」


「まぁ晴翔運動神経そんな良くねぇもんな」


「うっせ。それと今日はどうする?」


「んーそうだなぁ……俺はもう決めたからなぁ、後は晴翔次第だな」


「じゃあいいや、軽く見て回るだけだし」


「おっけー。じゃあまた明日な」


「じゃあなー」


 颯太と別れて文化部の部活動を軽く見て回る。いくつか魅力的なものはあったが、特段入りたいというものは無かったためおそらくどの部活にも入ることは無いだろう。


「ま、一応全部見て回るかぁ……とは言っても残るは文芸部だけなんだけどな」

 

 文芸部……なんかコンクールとかに参加するのは想像できるけど普段は一体何やってんのかよく分からないよなぁ。


「ここ……かぁ……」


 人気のない端っこの教室に書かれた文芸部の名前。だ、大丈夫だよな?昔は合ったけど今は廃部になってますみたいなことないよな?


 あまりの静けさに俺は不安な気持ちを抱きながら文芸部の部室の扉をコンコンとノックする。するとドアの向こうからドタバタという何とも騒がしい音が近付いてくる。


「新入生かい!?」

   

 バンッ!!とものすごい勢いでドアが開かれ、小豆色の髪をした目つきの悪い少女が息を荒げながらこちらを見上げる。


「えっと……一応新入生ですけ────どぉ!?」


「どうぞどうぞゆっくりしてって!!」


「ちょあの!?」


 腕をがっと掴まれ、半ば強引に部室へと引きずり込まれる。あまり体の発育はよろしくない方だが、柔らかく、そして温かい感触が腕から伝わり俺の心臓は早鐘を打つ。


「いやぁ良く来てくれました、本当に良く来てくれました!」


「は、はぁ……」


 とりあえず流れるままに座らされ、お茶を出されてしまったため抜け出そうにも抜け出せない。というか圧がすごい。俺をここから逃がさないという意思がひしひしと伝わってくる。な、なんかやばい感じするから適当な理由つけて逃げれないかなぁ……。


「私は小清水茜、2年だ。君はなんていうんだい?」


「高橋晴翔です、あの……俺他にもみたいとこあるんで─────」


「まぁまぁ落ち着きたまえ、ほらお菓子もあるぞ?ゆっくりしていきなって」


「それどっから出したんすか」


 机の下から違和感なくお菓子を出した先輩に苦笑いしながらとりあえずお菓子をつまむ。うん、上手い。まぁ話を聞くだけならいいか、お茶もお菓子も出してもらったわけだし。


「えっと……小清水先輩」


「茜でいいよ、その代わり私も名前で呼ぶけど」


「そうっすか、じゃあ茜先輩」


「なんだい後輩君」


 そこは晴翔じゃないのか……まぁいいや。


「他の部員はどこいるんですか?」


「ぐふっ……あ、ああね?そ、そのことについてなんだけどね?」


 先輩の反応、そして私物まみれの部室、そして俺を呼び止めることに必死になっているこの状況。なんとなく読めたぞ。


「じ、実は部員が私含めて3人しかいないんだよね……」


「……3人すか……」


「そうなんだよ。そしてさらに悪いことに2年は私だけ、3年生が卒業してしまえばこの文芸部は私一人になってしまうんだよ」


 ですよねぇ。部員が少ないんだろうなぁとは思ってたけど想像以上に少なかったわ。せめて5、6人入るものだと思ってた。


「そこで晴翔君にお願いだ!どうか、どうか文芸部に入ってくれないか!活動に参加しなくてもいいから!とりあえず文芸部に入ってくれないか!!」


「え、えぇっと……」


 こちらに頭を下げ、必死さが伝わる声音で入部をお願いされてしまう。う、うーむ……どうするべきか……。どこかの部活に入るつもりはなかったんだが、こんなにもお願いされた手前断るのもなんか気が悪いしなぁ……人助けのつもりで入ってみるのもありか?茜先輩曰く活動には参加しなくてもいいらしいし。


「君しか!もう君しかいないんだよお”お”!!どうがおねがいじま”ずう”う”!!」


「うわちょ!?ゾンビみたいに足に張り付かないでくださいよ先輩!!」


「晴翔君が入るって言うまで私はこの手を放しません」


「手段強引すぎません!?」


 いつの間にか俺の近くに移動し、いつの間にか俺の足に引っ付いていた茜先輩。両腕でがっしりと掴まれているせいでこの場から動くには先輩を思いきり振りほどくしかない。が、先輩の前に女の子のことを振りほどけるわけがない。それで怪我でもさせたら大変だ。


 まぁさっきも考えたけど人助けの一環で文芸部に入ってみるのもいいか。俺に文学の才能はないけど活動には参加しなくていいのだから気にしなくていいか。


「茜先輩、本当に活動には参加しなくていいんですよね?」


「もちろんだとも!実際に今の状況を見れば分かるだろう?普段の活動なんてほぼないようなものだし、文化祭の出し物もこじんまりとしたものだから私一人でカバーできる!」


 言ってて悲しくならないのかこの人。


「……なら入っていいですよ」


「本当か!?それは嘘ではないな!?というか今更やっぱ無しは受け入れないぞ!?クーリングオフはうちの部活では取り入れてないぞ!?」


「う、嘘じゃないですよ。本当に文芸部に入ります」


「ありがとう、ありがとう晴翔君!おかげで何とかなりそうだ!」

 

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