第21話 衝撃の事実

「鈴乃ちゃんおっはよー!!」


「きゃっ!おはようございます美緒先輩」


「今日も鈴ちゃんはかわいいね~…あ、おはよ晴翔」


「おはよ」


 後ろから鈴乃に抱き着き、ついで感覚で美緒に挨拶をされる。朝から元気なのは良いことだけど元気すぎるのも悩みどころさんではある。


 美緒が合流し、二人の後ろをついていくように学校への道のりを進んでいく。基本的に美緒が鈴乃と話すため俺はその話を聞き、ぼーっとしながら足を動かす。


「そういえば鈴ちゃんはどの部活に入るか決めた?そろそろ体験期間終わると思うけど」


「それがまだ決め切れていないんですよね……」


 鈴乃は苦笑を浮かべながら話を続ける。


「どの部活動も魅力的で、それに多くのところから勧誘されているので中々……」


「鈴ちゃん人気者だもんねぇ。そうだなぁ…運動部と文化部どっちに入りたいとかは決めた?」


「それもまだなんですよ」


「まぁ鈴はどっちに入っても主力級の活躍するだろうしな」


「シスコン……と言いたいとこだけど実際活躍しそうだからねぇ。決め切れないならうちくる?」


 今回に関しては美緒も同じ意見なのか特にジト目を向けることなく、鈴乃の勧誘という一瞬の隙も見逃さない立ち回りをする。


「うーん……それもありですかね……」


「ほんと!?うちのとこちょぴっと厳しいけど兼部自体は問題ないからどこか文化部と掛け持ちっていう手もありだよ!」


「兼部……出来ればどれか一つに絞りたいですね、パンクしそうなので」


「そっかぁ……晴翔はどう思う?」


「そこで俺に振るか」


 この会話においてほとんど力になれないと思っていたからあんまり喋らないようにしてたのに。こういうのは美緒、お前の役割だろ。


「えぇ?いいじゃん、一応部活はやってるんだからさ」


「部活って……ほぼ幽霊部員だけどな」


「え……兄さんって帰宅部じゃないんですか!?」


 すごい勢いで振り返り、こちらを驚愕の表情で見つめる鈴乃。そういえば俺鈴乃に部活入ってるの言ってなかったか。


「あれ?晴翔言ってなかったの?てっきり話してるものだと」


「き、聞いてないです兄さん!!」


 もしここに美緒がいなかったら「何で黙ってたのお兄ちゃん!!」と文句と共に頬を膨らませてそうだ。今でさえ普段の鈴乃からは想像もできないほど動揺してるし。


「い、いやぁ……話す機会なかったし、それに一応所属してるだけで何かしらの活動をしてるわけじゃないし…ね?」


「そ、それでおに──兄さんは何部に入ってるんですか?」


「晴翔はねぇ、文芸部に入ってるんだよー」


「文…芸…部?」


 まぁそうなるよなぁ……。


 ぽかんとした顔で固まってしまった鈴乃に自虐の意を込めた乾いた笑みを浮かべる。まぁ俺みたいなやつには似合ってないよなぁ、自分でも思うもん。


「な、なんで文芸部に入ってるの…?」


 ほんのちょっとだけ化けの皮が剥がれた鈴乃、まぁ化けの皮と言ってもそこまでではないし美緒にならばれても問題はないと思う。むしろ美緒なら素の鈴乃を見てもめちゃくちゃに可愛がりそうではある。


「んー……人数調整?」


「どうして兄さんが疑問形なの」


「まぁある先輩に部活人足りないから入ってって頼まれたからかな」


「晴翔はお人好しだねぇ」


「部活存亡の危機って言われたら入るしかないだろ?その代わり俺は基本的には活動に参加してない幽霊部員、ほぼ帰宅部みたいなもんだよ」


「そうなんだ……」


「だから俺にアドバイスを求めない方が良い、ただまぁ一回入部したら3年間やめれないっていうわけじゃないから気楽にな」


「はい……んふふ」


 そう言ってぽんと頭を撫でる。鈴乃ならどのコミュニティでもすぐ馴染めるだろうし色々試してみるのは悪くない手だと思う。とりあえず鈴乃に合う部活が見つかればいいな。






「じゃあな晴翔」


「おう、部活頑張れー」


 せっせと片付けをして部活へと向かう颯太を見送り、俺も帰ろうと思った時、自分のスマホ画面にとある文字が表記される。


「至急部室に来い……か…」


 はぁと一つため息を吐きながら俺はカバンを背負い、教室を後にする。本来であればこのまま玄関へと向かうはずだったが、俺は逆に階段を上り、人気のない端っこの教室へと向かう。


「失礼しまーす」


 コンコンと一応ノックはするが、返事を待たずにそのまま文芸部の部室へと入る。


「おー良く来たな晴翔ー」


 部屋の奥には小豆色の長髪をそよ風で揺らしながら、窓枠に肘をついて何かしらの小説を呼んでいる少女の姿があった。


「うっす、それで一体何の用ですかあかね先輩」


 持っている本からこちらへと顔を向ける目つきの悪い少女。椅子の上で片膝を抱え、その上靴下を脱いでいることから、さらにお行儀のわるーい雰囲気が漂っている。そう、このぱっと見不良少女こそが、俺を文芸部に誘った先輩、小清水茜こしみずあかね先輩だ。 

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