第13話 兄離れ
高校2年生としての生活が始まったが今までとあまり変わり映えのない日常が続いていた。勉強は難しくなったが一応前世でやったことがあるので何とかついていけているし、クラスの人ともある程度の友好関係を結べているため走り出しは順調と言えるだろう。
一方で、鈴乃はあれから学年……というか学校の人気者になった。彼女を取り合うべく部活動の勧誘に熱が入りすぎて先生から注意されるレベルに。なんならもう既に告白しに行った人もいるとかいないとか。どこの馬の骨か知らない奴に家の子は渡しません。もし仮に付き合いたいならとりあえず俺の審査を通り越してからにしてください。大丈夫ですよ、容姿と成績、後は品行と年収と家族関係とその他諸々を調べるだけですので。
それ以外に関してはかなり順調に学校生活を送れているらしい。クラスもいい人が多いらしいし、勉強に関してはそもそも心配する必要はない。このまま鈴乃が楽しい学校生活を送ってくれれば兄としては非常に嬉しい限りです。ただ……
「お兄ちゃん今日もか?」
「お前の兄になったつもりはない。それとシンプルに気持ち悪いからそう呼ぶのやめろ」
午前中の授業がすべて終わり、多くの学生たちが待ち望んでいたお昼休みの時間に突入する。そんな学生たちにとってのオアシスと呼べる時間が始まって早々、俺は友人からお兄ちゃんと呼ばれる最悪の体験を味わうことになる。
「はいはい、愛しの妹以外にそう呼ばれたくはないっすもんねぇ」
「よく分かってるじゃないか」
「はは、早く行けよシスコン野郎」
「いや、ちょっとそのことについて相談が……」
「……おう、まぁとりあえず話してみ?内容次第で手伝ってやるよ」
「俺、そろそろ鈴乃は兄離れが必要なんじゃないかなって思うんだ」
「先に妹離れしてから言えや」
真剣な眼差しで鈴乃のことについて相談し始めた次の瞬間、颯太の正論右ストレートが俺の顔面を襲う、効果は抜群だ。
「てか超が付くほどシスコンなお前が急に兄離れして欲しいとか一体どういう風の吹き回し?」
「やっぱりさ、妹には健全な学校生活を送ってほしいんですよ。勉強して部活に励んで、友達を作ってそして彼氏……は作んなくていいけど」
「おい、本音漏れ出てんぞ」
「と、とにかく!鈴には俺とじゃなくてお友達と楽しい時間をたくさん過ごして欲しいわけなのですよ」
鈴乃に彼氏が出来た姿を想像したらちょっと泣きそうになったが、俺はぐっとこらえて話を続ける。ただ、先ほど言った俺ばかりに構うのではなく青春を謳歌して欲しいという願いは本当のことである。
「そうだなぁ……まぁ何かしらアイデアを考えといてやるよ」
「まじで助かる」
「ほれ、お前はとりあえず最愛の妹のとこに行った行った」
「言われなくてもダッシュで向かうっての」
「マジで兄離れより先に妹離れした方が良いと思うんだよな俺は」
俺は早歩きで廊下を歩き、屋上へと向かう。最近、というか学校に入ってから俺はお昼ご飯を鈴乃と一緒に食べている。妹からの可愛いお願いを俺が断れるわけもないのだ。
「兄さん、一緒にお昼食べませんか?」
という感じで最初の頃は毎日毎日俺の教室にやって来ていたのだが、これは鈴乃的にあんまりよろしくないと思った俺は事前に場所を決めてそこに集合することに決めた。俺は別にシスコンだのなんだの言われても問題はないのだが、鈴乃は学校の人気者、そんな彼女がブラコンだなんて言われてしまえば、彼女の今後の学校生活に支障をきたす。今はまだ仲のいい兄妹で済んでいるがこれからはそうはいかないのだ。
「お待たせ鈴」
「ううん、大丈夫。私も今来たとこだから」
鈴は俺とご飯を食べるときは家にいるときみたいに口調が砕ける。まぁ学校でずっと肩肘張っているというのも疲れるだろう。あれ?じゃあ俺は今後も鈴乃と一緒にご飯を食べた方が良いのか?……いや、そんなことはない。むしろ素の鈴乃を晒せる友達を作らせた方が彼女にとっていいに決まっている。
それから俺と鈴乃は雑談を交えながらご飯を食べ進めていく。そしてご飯を食べ終え、時間的にそろそろ解散という時間になったところで鈴乃は上目遣いでこちらを見ながら口を開く。
「お兄ちゃん、いい?」
「ん?ああ、どうぞ」
「ありがと!」
少しもじもじしていた鈴乃は俺から許可が下りると、笑顔で感謝を告げて俺の背中にギューッと抱き着いてくる。
「今日ちょっと疲れたから多めに充電してもいい?もちろん授業には間に合うようにするから」
「いいぞ」
「ふへへ~お兄ちゃん大好き~」
ぐりぐりと額を擦り付けてきているのが背中越しに伝わる。鈴乃曰く午後も頑張れるように充電が必要とのこと、そのためこうして俺にくっついているらしい。まぁ俺的にもエネルギーが補給されるので全然問題ないし、むしろウェルカムなのだが兄離れをして欲しいという気持ちが「これいかんでしょ」とブレーキをかけてくる。まぁそのブレーキも鈴乃にくっつかれてからは全く効かなくなってしまったのだが。
「よし、これで午後も頑張れそう!ありがとお兄ちゃん!」
「どういたしまして」
うーん……これ兄離れ出来なくね?
「っ……またあの男だっ……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます