第14話 放課後の屋上……

「ハンカチハンカチっと」


 時は放課後、今日は……というか今日も特に予定がない俺は多くの生徒が部活動へ向かう中一直線に家へと向かう。片付けを済ませた俺はお手洗いで用を足し、帰る準備は万端。おそらく鈴乃は部活動の見学に向かうはずだから今日は一人で先に帰ってるかぁ。


「あっ、あの!!」


「はい?」


 トイレから出て教室へ戻ろうとしたその時、後ろから声を掛けられる。反射的に返事してしまったがまったく聞き覚えのない声だ、しかも女の子の。俺は声のした方向に体を向けるするとそこには自分を若干鋭い目つきで見つめる少女の姿があった。


 肩にかかるくらいの長さのミルクティー色の髪に、人目を惹きつける水色の瞳。現在学校では鈴乃がほぼすべての話題をかっさらっているが、鈴乃がいなかったら彼女が鈴乃のポジションにいたかもしれない、そうなってもおかしくはないほどの美少女だ。


「えっと一年生だよね?俺に何か用かな?」


「はいそうです。先輩、今お時間ありますか?」


「うん、暇してるよ」


「それは良かったです。実は先輩にお話がありまして……場所を変えたいのでついてきてもらってもいいですか?」


「お、おう……」


 えっ、ナニコレ。もしかしてこれはあれですか?一目惚れしました的なあれですか?我が世の春とうとう来ちゃった感じですか!?


 後輩ちゃんの後ろをついていきながらどうして自分にお声が掛かったのか、頭の中ではありもしないような妄想がぐるぐると駆け巡っていた。


 まぁ一旦落ち着けよ晴翔、もしかしたらドッキリとか罰ゲームの可能性も十分にあり得る。……いやちょっと待って?高校生活始まって早々罰ゲームorドッキリって治安終わってない?それもう既にクラスでいじめかそれに似た何かが起こってない?


 じゃ、じゃあマジもんの告白!?いやま、まぁ?俺もまぁかっこいいかって言われたら微妙だけど彼氏にしてもいいという合格ラインくらいには容姿も普通だし清潔感も保ってるから?告白の可能性も無きにしも非ずって感じだけど?


「それで話って何?」


 何とたどり着いた場所は屋上。夕焼けが白い校舎をオレンジ色に染め上げ、いつも見ている屋上とは一味違うどこか幻想的な光景になっていた。


「先輩……その……」


 俺はごくりと喉を鳴らす。次に紡がれる言葉に俺の心臓はどくんどくんと大きく脈を打つ。意識しないと浅くなってしまう呼吸を何とか整え、後輩ちゃんの言葉を待つ。数秒の沈黙が嫌に長く感じられる。そしてついに小さな口から続きの言葉が紡がれる。


「鈴乃ちゃんと一体どういう関係なんですか!!」


「ちょっとかんが──────今なんて言いました?」


「高橋鈴乃さんと先輩は一体どういう関係なんですかと聞いたんです!」


 まったく予想していなかった言葉が飛んできたことで俺の脳みそが一瞬おかしなことになる。耳がちゃんと機能しているか検証してみるも異常はないみたいだ。んー……どういうことだってばよ……。


「えっとどういう関係と言われても……」


「私知ってるんですよ!先輩がいつも鈴乃ちゃんとここでお昼ご飯を食べてること!」


 あら、ばれてました。


「そしていつもすんごく楽しそうに、普段の鈴乃ちゃんからは想像もつかないような表情でお話してるの知ってるんですから!」


「ちょ、ちょっとまっ──────」


「それに知ってるんです!鈴乃ちゃんと先輩の距離感が異常に近いことも!!」


「それは……」


 うん、確かに距離感はめちゃくちゃ近いですね。


「先輩は鈴乃ちゃんと付き合ってるんですか!?」


 薄々うっすらそこはかとなくそんな気はしてたけどやっぱりそう見えちゃいますよねぇ……お兄ちゃんそれを危惧してたんですよねぇ……。


 もしこれで彼氏ですと言えば、「鈴乃さん彼氏いたんだ、まぁ可愛いしいてもおかしくないよね」で済むのだがなんと相手が兄なのです。これがばれてしまえば「えっ……鈴乃さんってブラコンなの?……ちょっとないわぁ…」となってしまう。そうなってしまえば今築き上げている鈴乃の地位も名声も全てが無に帰してしまう。それどころか村八分の様にクラスから疎外されてしまう可能性すらあり得る。


 ここは鈴乃の兄であると素直に言うべきではない。慎重に行動しなければ……


「もし仮にそうだって言ったらどうするんだ?」


「……その時は─────」


 後輩ちゃんは一度大きく息を吸い、こちらをぎりっと睨みつける。


「その時は鈴乃ちゃんを説得して先輩と別れさせます!!」


「ほう?ちなみにその理由は?」


「だって鈴乃ちゃんにこんなのもったいないです!」


「ごふっ!」


「顔も普通だし、清潔感はあるけど何かに秀でている感じもしない凡庸な男だし」


「いぎぃ!」


「それにすぐ他の女に手を出しそうな顔してます!絶対ヤリ〇ンです!!」


「おいヤリ〇ンって言うな!現役JKが学校で言って良い言葉じゃないだろ!!自重しろや!」


 突然のヤリ〇ン発言に俺は声を荒げる。人がいなかったからいいけど女の子が大きな声でそんな下品な言葉叫ぶんじゃないよ!それにどこで覚えたのそんな言葉!!


「そんな人に鈴乃ちゃんを任せられません!絶対に先輩から鈴乃ちゃんを守って見せます!!」


 ビシッと指をさし、宣戦布告する後輩ちゃん。彼女の瞳からは尋常じゃない熱量を感じる。初対面の人相手にヤリ〇ン発言はどうかと思うが、これなら俺が鈴乃の兄であることを話しても問題ないかもしれない。それどころか鈴乃の兄離れ作戦に喜んで協力してくれる可能性も十分ある。この子は使えるな。


「あの……実は俺、鈴の彼氏じゃなくてお兄ちゃんなんだよね」


「……え?」

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