第15話 白川椿
「先輩って……鈴乃ちゃんのお兄さん……なんですか?」
「そう、高橋晴翔って言います、よろしく」
周囲は静寂に包まれる。数秒間に渡って形成された静寂は後輩ちゃんの大きな深呼吸により崩壊する。
「──────す」
「す?」
「すみませんでしたああああああああ!!!」
「ちょっ!?」
後輩ちゃんが大声と共に謝罪の最高到達点である土下座を決め込む。しかもただの土下座ではなく、立っている状態から素早く土下座の型に移行するという何とも芸術展の高い土下座を決めたのだ。もし俺がスタイリッシュ土下座選手権の審査員だったら迷わず10点を上げていただろう。なんだスタイリッシュ土下座選手権って。
「頭上げてよ、そんな謝ることじゃないからさ?だから床に頭擦り付けるのやめて!?」
誠意を見せようとしているのか土下座をしながら床に額をぐりぐりと擦り付ける後輩ちゃん。こんな美少女が土下座をしているだけでもあれなのに額を擦り付けるとか、謝ってるふりをしながら俺のこと社会的に殺そうとしてるだろ。
「鈴乃ちゃんのお兄さんに私はなんて発言を……本当にごめんなさい」
「いやいいよ、初めに言わなかった俺も悪いからさ。全然気にしないで、後土下座は今すぐやめてね」
試すようなことをしなければこんなことにならなかったのは事実。俺のせいでこんな謝らせることになってしまって非常に申し訳ない。
「そういえば君名前は?」
「あっ、すみません。自己紹介がまだでしたね、私は
「いいよ、あれは不幸なすれ違いだったってことで。それといつも鈴がお世話になってます」
「いえ!鈴乃ちゃんには逆にお世話になってばかりで……」
ふむ……しっかりと礼儀正しく対応もできるし、鈴乃との仲も悪くはなさそう。何より鈴乃へ向いている感情がかなり重い。俺が兄じゃなかったら別れさせるとはかなり良いセンスと考えを持っている。これなら俺の作戦にも協力してくれること間違いなしだ。
「ねぇ白川さん、一つ頼みたいことというか鈴乃に関することで相談事があるんだけどいい?」
「っ!はい!もちろん大丈夫です!」
「お、おう……」
そんな急に顔近づけないでもらってもいい?君どんだけ家の妹好きなの……。俺は悟られないように彼女から少し距離を置き、話を続ける。
「鈴乃が俺と一緒にご飯を食べてるとこ、そして異常に距離感が近いところを見たって白川さん言ってたよね?」
「はい、それはもう付き合いたてのカップルかってくらいにはくっついてましたね」
「そう、そのことについてなんだよ。実は鈴……まだ兄離れが出来てないんだ」
「……そんな溜めて言う事じゃないと思うんですけど……」
白川さんのツッコミは聞こえなかった振りをして話を続ける。
「兄としては嬉しい反面そろそろ兄離れをして欲しいお年頃なのですよ。お昼ご飯も俺とじゃなくてお友達と食べて、一度しかない青春を謳歌して欲しいわけですよ」
「なるほど……」
「そこで白川さん、明日鈴乃に一緒にご飯食べようって誘ってくれない?そしてそれを機に鈴ともっと仲良くなってくれない?」
「うぇ!?わ、私がですか!?そ、そんなの無理です!!恥ずかしいし私なんかが誘ったり、仲良くするなんて迷惑ですよ!!」
おいおいおい、家の妹を何だと思ってるんだよ。勉強と運動が出来て品行方正で容姿が端麗なただの女子高生だぞ?……あれ?ただの女子高生ではないか……。
「大丈夫大丈夫、白川さんなら行けるって」
「そんな適当なこと言わないでくださいよ!」
「えぇ?でもいいの?あの鈴乃ちゃんの兄からこうして直々に仲良くして欲しいって言われてるんだよ?鈴と仲良くなりたいって思ってる他の子よりも一歩……10歩分くらいはリード出来るんだよ?」
「そ、それは……確かにそうですけど……」
口元をもごもごさせながら俯く白川さん。彼女は今、目の前に美味しそうな餌を垂らされ、それに齧り付きたいけど一握りの理性がそれを抑えている状態だろう。ふふふ、あと一押しくらいかな?
「今鈴と仲良くしてくれたらあの鈴乃ちゃんの身内公認の仲になれるんだけどなぁ?ただのクラスメイトから信じられないくらい仲が進展するんだけどなぁ?」
「鈴乃ちゃんの身内公認……」
この時彼女の脳内に電流が走る。鈴乃と過ごす楽しい学校生活、可愛いし服に身を包んだ鈴乃とのお出かけ《デート》、そして鈴乃の家でご家族と一緒にご飯を食べる自分の姿。彼女の妄想がほんの少し現実味を帯びたことで彼女の頭の中で鈴乃とのいちゃいちゃが瞬間的に映像化する。
「へへ……鈴乃ちゃん……」
「……あの?白川さん?」
「はっ!す、すみません取り乱しました!!先輩……いやお兄さん、その話乗りました!」
「そりゃよかった、後お兄さん呼びはやめてくれ?」
本当にこの子に頼んで良かったのか、少し不安だけどまぁ何とかなるでしょ……多分。
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