第12話 お昼ご飯にて

「「ただいまー」」 


 俺と鈴乃は誰もいない玄関でただいまの挨拶をする。父さんも葵さんも仕事をしているためお昼は家に誰もいない。静寂に包まれた我が家で俺のお腹が大きく音を立てる。


「待っててねお兄ちゃん、今からご飯作るから」


「ありがと鈴」


 リビングに荷物を置き、トテトテと足音を立てながら料理の支度をする鈴乃。何か手伝った方が良いかなと思いつつも俺が手伝うと単純に邪魔になる気がしたので大人しくソファに座って待つことにした。


 鈴乃は勉強、運動だけじゃなく家事までもこなす。料理も掃除もお茶の子さいさいと女子力というかオカン力が非常に高い。本当に彼女の欠点is何?となってしまうほど鈴乃は完璧美少女だ、兄として非常に誇らしい。


 少しの間のんびりした後、料理が終盤に入ったのを確認した俺はテーブルのものを片付けたり、テーブルを拭いたりとご飯の準備をする。


「お待たせお兄ちゃん、簡単なものだけど」


 エプロン姿の鈴乃が二つの皿を持ってキッチンから出てくる。出来れば配膳の仕事も手伝いたいと思っていたがどうやら他に運ぶ皿はないみたいだ。


「全然、めっちゃ美味そうだわ」


 自分の目の前に置かれた皿には炒飯が綺麗に盛り付けられた。簡単かつ短時間で作れる料理の代名詞、だがそれ故に極めるのは難しいとされている料理の代表格、それが炒飯。俺も一人暮らししていた時は良くお世話になってました。


 当時自分が作っていた炒飯とは明らかに違うとても美味しそうな炒飯に俺の胃袋は早く食べさせろと体の内側からドンドンと壁を叩いてくる。まぁ焦るな俺の身体、もう少ししたら幸せにしてやるからよ。


「それじゃあいただきま─────あの、鈴乃さん?」


 いざ食べようと俺の前意識が炒飯へと向いたとき俺の目の前にあった炒飯がすいーっとスライドし、鈴乃の元へと引き寄せられる。


「お兄ちゃん、食べる前に何か言う事があると思うんだよね」


「ちゃんといただきますは言ってたし……あぁ、ごめん言うの忘れてた」


「うん」


「作ってくれてありがとな」


「えへへ、どういたしまして……ってそうじゃないの!!」


 あれ?違ったか?感謝の言葉を忘れてたからてっきりこれのことかと思ったけど……


 頬をぷっくりと膨らませながらこちらを見つめる鈴乃に俺は首を傾げる。これ以外に言うべきことがあるかと自分に問いかけてみるも正直見つかる気がしない。


「えっとごめん鈴、俺何か悪いことした?」


「悪い事じゃないかもだけど悪い事した」


 いや悪い事したんじゃないすか。それ最初の方要らなくない?えぇ?俺鈴乃になんかしたっけなぁ……。


 朝起きてからの自分の行動を振り返ってみるも鈴乃に対して悪い事をした記憶が全くない。かと言ってここ数日の間に何か機嫌を損ねるようなことをしたならその時に機嫌が悪くなるため、原因は今日の俺の言動のいずれかになるのだが……皆目見当もつかないですね。


「思いつかないみたいだね」


「……ご、ごめん。その、俺が何やっちゃったか教えて貰ってもいいか?」


「お兄ちゃんは─────」


 ごくりと喉を鳴らし、腕や足など体を強張らせながら鈴乃の言葉を待つ。そして……


「頑張った私のこと撫でてくれなかった!」


「……はい?」


 予想外の言葉が耳に入ってきたせいで脳みそが一瞬フリーズする。この脳みそのバグり具合的におそらく聞き間違いではないだろう。そっか、聞き間違いじゃないかぁ……。


「私新入生代表挨拶すごく頑張ったのに、お兄ちゃん私のこと撫でてくれなかった!あんなに頑張ったのに!!」


「ご、ごめんて……」


「しかもお兄ちゃんに撫でてって目で訴えかけて、それにお兄ちゃん気づいてたのに無視した!」


「それは……ほら、鈴って学校だと何というかクールな感じだろ?だから俺のせいでその一面が壊れちゃうのはちょっと忍びないなぁって」


 やっぱあの時の視線は頭撫でろってことだったのかぁ。俺お兄ちゃん力高くね?目と目で通じ合えるとか大分すごいと思う。それはそれとして怒られてるんですけどね。


「別に……周りの人なんかどうでもいいもん。お兄ちゃんに褒められるために何回も練習したのに……」


 やばい拗ねてしまった。妹の評判を下げないようにと思っていたがどうやらそれは悪手だったらしい。なんとかして鈴乃の機嫌を取り戻さねば。


「ごめんて。後で頭撫でるから今回はそれで勘弁してくれないか?」


「誠意が足りないと思うなぁ。私すごく傷ついたなぁ。あんなに頑張ったのに褒めてもらえなくて私すっごく悲しかったなぁ」


「……はぁ、わかったわかった。で?俺はどうすればいいんだ?」


 俺の言葉を聞いた鈴乃はその言葉を待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。先ほどまでの不貞腐れた表情はどこへやら鈴乃の顔はとても生き生きしていた。


「じゃあご飯食べさせて!あ、撫でるのとはもちろん別カウントだからね?」


「はいはい」


 俺がお願いを了承すると鈴乃は嬉しそうに俺の隣へとやって来る。先ほどまでの不満げな表情はどこへやら今は幸せ全開の笑顔を浮かべていた。


「ほれ、どうぞ」


「いただきます、あーん……んー75点かな?でもお兄ちゃんが食べさせてくれたから100点!はいお兄ちゃんもどうぞ」


「いただきます、あむ……うまっ、これは100点だな。あぁでも鈴乃が食べさせてくれたから+100点で200点だな」


「えへへ~」


 そろそろ兄離れさせないとなと考えていたのにこれである。果たして兄離れ出来るのだろうか……まぁ今のところ無理ですね。

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