第17話 すれ違い
『ごめん鈴、今日ちょっとやんなきゃいけない課題あるからお昼一人で食べてくれるか?』
『分かった!課題頑張ってね!』
『ありがと、頑張るわ』
兄の返信を見てにこりと微笑んでから、ぽちっと電源ボタンを押してスマホの画面を暗くさせる。
さて、これからどうしようかなぁ。
私の学校の楽しみの一つであるお兄ちゃんとのお昼ご飯イベントが無くなってしまい、自分でも驚くほどにテンションが下がっているのを感じる。別に学校がつまらないわけでもないし、クラスの人と話す事が苦というわけでもない。ただそれ以上にお兄ちゃんと過ごす時間の方が何百倍も楽しいし、心が落ち着くし幸せに感じるのだ。
うーん……誰かクラスの人と一緒に食べる?でももうかなりグループは出来上がっちゃってるし、今日だけどこかしらに混ぜてもらうというのもそれはそれで勇気がいるなぁ……。
私は基本誰とでも仲良さげに話すことは出来るが、本当に仲のいい人というのは実はいない。いつも誰かが周りにいるが自ら誰かの元に向かうということはしないのだ。まぁ別に問題ないと言えば問題ないが、今日みたいにお兄ちゃんと一緒にご飯を食べれないときはちょっとだけ孤独感を感じてしまう。
適当に屋上にでも行こうかな。出来れば人目に付きたくないし。
ガタリと音を立てながら席を立ち、教室を出ようとする。
「あ、あの……鈴乃ちゃん!」
「白川さん?どうかしましたか?」
が、私はクラスメイトの白川さんに引き留められる。彼女とは数回話したことはあるがそれ以外ではあまり絡みがない。とてもかわいい子だなぁという印象はあるがそれ以外はあまり彼女についての情報を持ち合わせていない。そんな彼女が私に何の用だろう。
「もし良かったら私と一緒にお昼食べませんか!!」
突然のお誘いに私は目を見開く。白川さんの態度や、周囲に人がいないことから二人で食べないか?という事だろう。
「えぇ、いいですよ」
「……やった!」
嬉しさのあまり小さくガッツポーズをする白川さん、そんなに私と一緒にご飯が食べたかったのかな?でも私もその気持ちは分かる、だって私もお兄ちゃんとご飯食べたいし。
「どこで食べましょうか」
出来れば教室以外で食べたいなぁ。まぁ任せると言われたらいつもみたいに屋上に行けばいっか。
「あ、私いいとこ知ってるんですよ!もし良かったらそこに行きませんか!?」
「わかりました、じゃあそこに行きましょうか」
げ、元気だなぁこの子。見た目はすごい大人しそうな感じだけど実は元気っ子なのかな?でも普段あんまり大きな声出してるとこ見たことないし……うーんどうなんだろ。
「こ、ここです……!!」
「わぁ……いいですね」
連れてこられたのは校舎から少し離れた裏庭のような場所。そこには一面の緑が広がっていた。ベンチの近くには大きな木があり、それが太陽から降り注ぐ熱を防いでくれてとても心地よさそうな空間となっていた。
「こんないい場所あったんですね」
「実は偶然ベンチがあるのを見つけて……」
「そうなんですか、教えてくれてありがとうございます。それじゃあ食べましょうか」
「は、はいっ!」
ベンチに横になって座り、私はお弁当箱を開く。ふと隣から白川さんの香りが風に乗ってやってくる。こんなに近づいて話すのは初めてだというのにどこかで嗅いだことのある香りに、自分の脳が疑問を抱く。
「わぁ、鈴乃ちゃんのお弁当可愛いですね!」
「本当ですか?ありがとうございます」
「え!?これ鈴乃ちゃんが作ってるんですか!?」
「はい、基本は私が作ってます」
「料理まで出来るなんてすごいね鈴乃ちゃん……」
尊敬のまなざしを間近で向けられ嬉しさと恥ずかしさが混じった気持ちになる。私は元々料理が得意ではなかったが、お兄ちゃんに美味しいと言って貰いたくて練習を始めた。今になって思うけど最初作った料理は冗談抜きに美味しくなかったと思う。
それでも私が今こうして美味しいご飯を作れるようになったのはひとえにお兄ちゃんのおかげだと言える。どんな時でも美味しそうにご飯を食べてくれるお兄ちゃんを見るのが嬉しくて私は、料理の練習と勉強を頑張ることが出来た。
全てはお兄ちゃんのため、お兄ちゃんに喜んでもらうのが私にとっての幸せなのだ。あわよくばこれからもずっと……
「鈴乃ちゃんどうかした?」
「いえ、なんでもないです。白川さんのお弁当もすごい綺麗ですね」
「お母さんが作ったものですけどね。……そ、その鈴乃ちゃん」
「はい」
「もし良かったら一個おかず交換しませんか?」
「もちろんいいですよ」
うわあああああ!!鈴乃ちゃんの作ったご飯を食べれるとか!私明日から大丈夫かなぁ!?何かしらの不運が一気に来たりしないかな!?
「はい、どうぞ。今日のお弁当の中で一番の自信作です」
卵焼きキターーーー!!鈴乃ちゃんの卵焼き食べれるとかマジで今日いい日過ぎる!!
体全体をアドレナリンなどの興奮物質が駆け巡る。今すぐにでもベッドの上にダイブしてゴロゴロと転がりたい気分だが、それをしてしまえば鈴乃ちゃんに嫌われることは間違いないため、表情に出さないように感謝の言葉を告げる。
こんな近い距離で、しかもお弁当のおかずを交換して──────
「じゃあ私からはこれを」
「ありがとうございます」
すんすんっ……うん、やっぱりだ。どこかで白川さんの香りを嗅いだことがある。それもかなり最近だ。どこでだろう………はっ!思い出した!!
記憶の海を放浪すること数秒、この香りの正体が判明する。
これ、お兄ちゃんの制服についてた匂いだ……。
つい先日、愛しのお兄ちゃんの制服にこびりついていた女の匂い、あの匂いと非常に酷似しているのだ。
お兄ちゃんは先生のお手伝いだって言ってたけど……あれは嘘だったってこと?でもお兄ちゃんが私に嘘を?……でもこの匂いは間違いなくあの時の物だ。お兄ちゃんの制服、そして今日、お兄ちゃんがいないのを見計らった私への接触……
ぐるぐるぐるぐるとお兄ちゃんと白川さんの関係性についての考察が脳内を巡る。お兄ちゃんのついた嘘、そしてお兄ちゃんの制服についた彼女の匂い──────
まさか、私今日で鈴乃ちゃんとすんごく仲が進んじゃうんじゃない!?
まさか、この子お兄ちゃんのことを狙ってるんじゃない!?
ムフフ……最高の一日だなぁ……。
ぐぬぬ……絶対にお兄ちゃんのことは渡さないんだから……!!
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