第146話 雪でも降るのか
文化祭という大きなイベントを終えた生徒達は名残惜しさを抱えたままいつもの学校生活を送っていた。通常時と比較してほんのり憂鬱さが増した午前の授業を乗り越えた俺は颯太と共にお昼ご飯を食べていた。
「なぁ颯太」
「ん?どうした?」
「彼女ってどうやって作るんだ?」
「んー彼女かぁ……って彼…ごほっごほっ!!」
衝撃的な内容だったのか俺の言葉を聞いた颯太が大きく咳き込む。別に俺そこまで変なこと言ったつもりはないと思うんだけどなぁ……だって俺一応高校生よ?そういう恋バナみたいなのしても変ではないだろ。
「……はぁ死ぬかと思った。まじでいきなりそういう事を言う時はタイミングを考えてくれると助かる」
「えぇ……」
何故怒られているのか俺には全くと言って良いほど理解が出来ない。だって俺彼女の作り方を聞いただけだよ?高校生なら……というか男なら誰しもが考えたことのある内容だよ?なのに怒られるって理不尽だとは思いません?
「ふぅ……んで?いきなりどうしたんだよ。妹以外の女の子には興味を示さないお前が彼女の作り方を聞くとか……変な物でも食べたか?」
「確かにシスコンなのは認めるが俺は別に他の女の子に興味を示さないわけじゃないんだが?」
酷い偏見を口にする颯太に俺は口元をむっとさせながら言葉を返す。別に俺は他の女の子に興味がない訳じゃないの、鈴乃の幸せを第一に考えているだけなの。
「そういう冗談は良いんだが……まぁ一旦置いておこう。一体どんな心変わりがあったんだよ」
「冗談じゃないんだけど」と言葉を返したくなったが、喉元を通りかけた言葉をごくりと飲み込み、代わりに別の言葉を口に出す。
「俺って今まで恋愛というものをしたことが無いんですよ。だからまぁ高校卒業までに一度はそう言うのも経験しておきたいなぁって思って」
「君は君自身の幸せを願っても良い」理子さんから送られた言葉に俺は勇気が湧いた。自分が目を逸らしていたもの、逃げていたものに向き合うための勇気が。俺のこの人生は鈴乃を幸せにするためにある物だという認識は今でも変わっていない。おそらくこれからも俺は鈴乃の願いを可能な限り叶えようとするし、これでもかというほど甘やかすつもりでいる。
しかしそれはそれとして自分の人生についても考える時間が来たのだ。自分のやりたいこと、見たい物、知りたいこと。その全てを叶えることは難しいことかもしれないがそれでも叶えられる物は叶えていきたい。そうじゃないと理子さんと再会した時に怒られてしまうから。
そして自分の興味があるものの中で一番俺の心をくすぐるのが青春というものだ。前世も今も体験したことが無い、しかし生活をする上で必ずどこかで見聞きする言葉。そしてその青春の最たるものである恋愛というものを俺は経験してみたい。
「……大丈夫か?中身変わったりしてないよな?」
「してないわ。というかさっきから俺に対しての当たりがひどすぎると思わない?」
「いやぁ……だってあの晴翔が恋愛について興味を示すとかねぇ……明日雪降りそうだな」
「普通に泣くぞ?」
「これが普通の反応なんだよ。美緒にこのこと話してみ?絶対俺以上に驚かれるから」
「それは……無いとは言い切れないな」
自分の脳内で美緒に先ほどの内容を伝えてみたが颯太の何百倍も驚き、俺のこと……正確には俺の頭を心配し始める美緒の姿が想像できてしまう。こいつらは俺のことを一体何だと思ってるんだよ……シスコンか……(自己解決)。
「まぁでも妹離れする時期はとっくに過ぎてるし、ちょうどいい機会なんじゃないか?これで彼女の一人や二人できたら嫌でもそっちに時間を使うようになるだろ」
「言い方って物があると思うんですよ颯太さん」
「どうせ晴翔しか聞いてないんだからへーきへーき。……あぁ、そういえば」
「ん?どしたの」
「いや、ちょうどいい人が近くにいたなと思って。よし、この後まだ時間あるしそいつに話聞きに行くか。ほら、俺はもう食べ終わったから早く食べろ~」
「……もうちょっと詳しく説明してくれても良いんじゃないか?」
「まぁまぁお楽しみという事で」
俺は言われるがまま残りのお弁当を急いで食べ、颯太の後についていくのであった。
次回は金曜日か土曜日です。今週のです。。。
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