第147話 参考にならん

「おーい雄太ゆうたー」


「ん?どうした颯太?」


 やってきたのは別のクラス、チラリと覗くととても楽しそうにお昼ご飯を食べている生徒の姿が見える。その中で颯太が読んだのはとても爽やかさを感じさせる少年。顔はとてもイケメンというわけではないが彼の爽やかさとスポーツをやっている人特有のスタイルの良さが彼のかっこよさを底上げしている。


「ということで同じ部活の雄太、んでこっちは晴翔。ほい、挨拶してー」


「初めまして雄太さん」


「呼び捨てで良いしため口でいいよ。その代わりこっちも晴翔って呼ばせて貰うけど」


「おっけ、改めてよろしく雄太」


「よろしく晴翔」


 見た目と違わない爽やかさ...運動部ってすごいなぁ。


「今日晴翔にこいつを紹介したかった理由は1つ、なんとこの雄太君文化祭で彼女が出来たからでーす。別に拍手しなくても良いでーす」


「そこは友人として拍手してくれよ...」


「おめでとう雄太」


「ありがとう晴翔」


 拍手の代わりに祝福の言葉を雄太に送る。まぁ友人に彼女出来た時に祝福しないのは分からなくもないけどね。俺も颯太に彼女出来たらおめでとう言わずに茶化しそうな感じするし。


「とまぁ最近彼女が出来たこいつに色々話を聞こうって訳だ。俺は別に聞きたくないんだけどな」


「一言余計だぞ」


 仲の良さを感じさせる軽口の言い合いに俺はほっこりした気持ちになる。普段見れない颯太の一面を見れてちょっと新鮮だな。


「それで?彼女の事を聞きたいって言うのはどういうことなんだ?」


「実はこの晴翔っていう奴は今まで彼女が出来たことない……というか妹以外の女の子に全く興味を示さなかったわけなんですよ」


「妹以外……ってああ、晴翔って高橋鈴乃さんの兄貴か。一時期うちのクラスでも話題になってたわ」


「話題になっても全く嬉しくなかったわ」


「はは……まぁそうだろうなぁ」


 同情の言葉を述べる雄太に俺は乾いた笑いを返す。あの時は本当に有名人……しかもあまり嬉しくない有名人のなり方だったからね。本当に疲れましたよあの時は。


「晴翔のことを知ってるなら話が早い。まぁこいつは全校生徒の前で大切な妹宣言をするほどシスコンなわけだがようやく妹離れをしようかなと考えているところなんだよ」


 いや事実だけど……事実だけど俺の印象悪くなるからシスコンってストレートに伝えるのは良くないと思うの。


「おぉ……おめでとうって言えば良いのか?」


「あ、ありがとう……」


 ほら、めちゃくちゃ困ってるし気まずそうにしてるじゃん!あっちも気を遣わないといけないしこっちはこっちで精神的なダメージがすごいことになってるんだよ。win-winじゃなくてlose-loseになってるんだよ。


「てことで雄太、どういう感じで彼女が出来たかとかを教えてくれると助かる」


「てことでで話す内容じゃないんだが…?」


「それはそう。でも気になるから教えてくれるとめっちゃ助かる」


 雄太の言っていることはもっともだがそれはそれとしてとても気になる。どういう感じで彼女って出来るものなのか俺もとても気になる。


「いやぁ……別にそんな他の人の恋愛と大して変わらないと思うぞ?」


「それでもやっぱり俺ら彼女いないからさ、ご教授してくれると助かるんだよ」


「颯太はいないじゃなくて作らないだけだろ」


「それを言えば晴翔もいないじゃなくて作ってないだけだからな」


「はい?」


 どうして俺も作ってない派閥に入れられてるの?俺は作れるけどいない人間じゃなくて作ろうと思っても出来ない方の人間だからね?そこのところ誤解しないように気を付けてね?


「まぁこの話は一旦置いておいて……雄太、どうだったんだよ」


「……これ本当に話す必要ある?まぁ別にいいけどさぁ」


 ぽりぽりと頬を掻き恥ずかしさを露わにした雄太は彼女との馴れ初めについて話し始めた。


「俺と桜……じゃなくて彼女と仲良くなったのはそれこそ文化祭の準備が始まった時だな。今まではただのクラスメイトって感じだったんだけど同じ担当になって業務的な会話からお互いの話をするようになったんだよ」


 最初は喋りづらそうにしていたが、一度話を始めたら恥ずかしさが引っ込んだのか雄太はすらすらと彼女との馴れ初めを話していく。


「それからは良く作業の合間にくだらない話をしたり、互いの趣味の話をしたりして意気投合してさ。それから準備の時間以外にも話すようになって、後一緒に帰るようにもなったかな。ほら、暗い時間帯に女の子一人で帰らせるのはあれだろ?」


「……そうね」


 あ、甘い……。甘い物は大好きだがあまりにも雄太の話が甘すぎてコーヒーを飲みたい気持ちになった。これが……青春の味か……。


「それで文化祭一緒に回ろうってこっちから誘って、んで最終日のキャンプファイヤーで告白して付き合うことになったって感じだな」


「どうだ晴翔?参考になったか?これが彼女の作り方だ」


「……うん、まぁ申し訳ないけど参考にはならなかったかも」

 

 ただただ甘い、青春だという感情だけが俺の頭と心と舌を支配するだけで、どうやって彼女を作れるのかや青春を送れるかというものの参考にはならなかった。うーん……ただただ口の中が甘い。

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箱入り妹は圧がすごい ちは @otyaoishi5959

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