第145話 作戦会議

「緊急作戦会議を開きたいと思います!!」


「お、お~??」


 私の唐突な宣言に椿は困惑しながら拍手をする。「会おう!」とカフェに突然呼ばれたかと思えばいきなり作戦会議を開くと言われれば頭に疑問符が浮かぶのも致し方が無いと思う。許せ椿、今は非常事態なのです……。


「それで……一体どうしたの鈴ちゃん?」


「よくぞ聞いてくれました」


 私は某サングラスをかけた司令官よろしく机に肘をついて手を組む。この時椿は「今日の鈴ちゃんはやけにテンション高いなぁ……」と思っているのだが当の本人は至って真剣である。


「事件は昨日の文化祭……正確に言えば後夜祭にて起こりました。あの時椿と一緒にダンスを踊り、楽しい気持ちで胸が満たされ、さらにもしかしたらお兄ちゃんとも踊れるかもしれないという期待に胸を高鳴らせていました」


 私は物語のナレーションの様に事の顛末を話し始める。


「その時に事件が起きたのです。なんと……なんとお兄ちゃんと茜先輩が手を繋いでダンスを踊っていたのです!!」


「……先輩が?」


「そうなんだよ!大事件も大事件だよ!もしかしたら、いやもしかしなくても絶対に茜先輩はお兄ちゃんに告白してるんだよ!知らない女……いやまぁちょっとは知ってるけど別の女がお兄ちゃんに言い寄って来たんだよ!」  


 私は他の人の迷惑にならない様に小さく机を叩きながら椿にお兄ちゃんの現状を伝えると、椿は私の話を聞いてほんの少し考える素振りを見せる。


「……まぁ確かに茜先輩と仲良さそうにはしてたもんね」


「そうなんだよ!茜先輩とお兄ちゃんは同じ部室で二人きりで過ごしてきた仲なんだよ!だから否定しようにもしきれないんだよ!あぁ……ちょっと想像しただけでもメンタルがどんどんすり減ってく」


「い、一旦落ち着こう?ほら、まだそうと決まった訳じゃないから。ね?」


「うん……」


 私は椿に宥められ、頼んだ飲み物を飲みながら深呼吸をする。確かに今の私には落ち着きが足りていないのかも……でも落ち着いている場合じゃないのです。お兄ちゃんが他の人の物になってしまうのは死活問題なのです。


「それにしても茜先輩とかぁ……そういえば先輩は昨日どんな様子だったの?一日中スマホをいじってたとか、画面を見てにやにやしてたとかそう言うのはなかった?」


「昨日は一日中お兄ちゃんに甘やかしてもらったよ?珍しくお兄ちゃんの方から甘やかしてくれたんだ~……えへへへ」


「そ、そうなんだ……それは良かったね」


 とても幸せそうな表情を浮かべながら話をする鈴乃に、椿は苦笑いを浮かべる。しかしこの苦笑いの裏で鈴乃のふやけた表情を見れたことに幸せを感じている時点で椿も大概あれな気もするのはここだけのお話。


「うーん……でももしキャンプファイヤーの時に告白されたと考えると茜先輩と連絡を取り合う様子が見られるはずなんだけど……ちなみに先輩には聞いてみたの?」


「き、聞けてません……」


「え、そうなの?」


 意外だと言わんばかりに驚いた表情を見せる椿に私は言葉を続ける。


「色々聞きだす予定ではあったんだけど……お兄ちゃんの方から甘やかしてくるという珍しい状況が生まれてしまったせいで……流されちゃいました……ごめんなさい」


「す、鈴ちゃん!?私別に怒ってるとかそういう訳じゃないからね!?」


 頭を下げる私に椿は慌てた様子を見せる。聞こうとは思ってたんですよ...でも誘惑には勝てなかった......。


「そうだなぁ...まだ茜先輩と先輩が付き合ってると決まった訳じゃないから一旦事実確認をするのが大事なんじゃないかな?でも私の予想だと2人が付き合ってる可能性は低いと思うな」


 椿の言葉を聞いて私は冷静さを少しずつ取り戻す。確かに言われてみればお兄ちゃんと茜先輩が付き合ってる可能性は低そうだし、まだお兄ちゃんに聞いた訳じゃない。は、早とちりにも程があったかも...。


「うん...…まずはお兄ちゃんと話をする所から始める。でもそろそろ私も危機感を抱く時間がやってきたと思うの」


「危機感?」


「そう、私はお兄ちゃんのことが異性として好きだけど当の本人は私のことを可愛い妹としか見てない。もちろんそれはそれで嬉しい事なんだけど私はお兄ちゃんとの関係を進めたい。私は誰にもお兄ちゃんを取られたくない」


 今まではどこか安心感を抱いていたのかもしれない。まだ大丈夫、まだお兄ちゃんを取られることは無い。私がお兄ちゃんに近寄る女を追い払えば解決する。そう考えていたが現実はどうやら思い通りに行くことは無いらしい。


 年を取るにつれてお互いに干渉しない時間が増えていく。そのせいでお兄ちゃんが私の知らないところで女の人と関係性を持ったり、いつの間にかその関係が発展しているという状況が多発してしまっているのだ。


 それでも私は甘えていた。どうせお兄ちゃんは私のことを一番に考えてくれる、結局私のことが一番大切で一番大好きなのだと。年を取れば成長した私のことを本気で異性として見てくれるだろうと心の中で甘えているところがあった。


 だがその考えは捨てる時が……捨てなければならない時がやって来た。今までの考え方でいるとお兄ちゃんが知らない間に私の下から離れていくかもしれない。誰かの物になってしまうかもしれない。


 そんなことがあってはならない。そろそろ私も本格的にお兄ちゃんを振り向かせないといけないのだ。


「確かに先輩は鈴ちゃんのことを大切な妹って思ってるけど女の子として意識はしていないもんね」


「そう、だから私は本気でお兄ちゃんに異性として意識してもらおうと頑張る必要があると思う。でも私一人だとやっぱりどうすればいいか分からないって時が来ると思う。こんなことを頼むのはあれかもだけど椿には私がお兄ちゃんに異性として認識してもらうのを手伝って欲しい」


 こんなことを話せるのも頼めるのも椿しかいない、私はその思いを言葉と視線に乗せ協力を仰ぐ。


「もちろん!私は鈴ちゃんの友達だからね、何でも協力するよ!」


「椿……ありがと~!」


「きゃっ……!?鈴ちゃんそんないきなり…!!」


 私は椿にぎゅっと抱き着く。恋敵は多いかもしれないけど……私が全てをなぎ倒してお兄ちゃんと結ばれるんだ。絶対に、絶対にお兄ちゃんは渡さないから!!



投稿が遅れてしまい申し訳ございません!ちょっと思いついたアイデアを形にしようとあれこれしてたらいつのまにか時間がたってしまいました……。次回はもうちょっと早いはず!!多分!!

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