第49話 体育祭がやってきた
「はい、てなわけで今日は体育祭の種目決めを行いまーす」
とうとう来てしまった。陽キャ達がはしゃぎ、汗を流し、青春の1ページを刻み込むイベント。そして陰キャ達が怯え、震え、皆の視線に突き刺され、黒歴史の1ページを刻み込むイベントが。
「晴翔は何やるか決めた?」
「決めてない、でも出来るだけ楽なやつがいい」
カリカリと黒板に種目が掛かれるのを見ながら俺と颯太はどの種目に出るかの話をする。
「楽な奴ねぇ……100m走とかは?一回走れば終わりだぞ?」
「それは運動部だから言えることなんだよ。運動苦手な奴からしたら同情と憐みの視線を向けられながら走ることになる地獄の競技なんだよ」
「えー?めちゃくちゃ大きな声で応援してやろうと思ってたのに」
「鬼かお前は」
あれこれ話していると2年生が参加できる全種目が黒板に書きだされた。この中から出来るだけ楽であり、周囲から同情の目を向けられにくいものを選ばないといけないが──────
「じゃあ玉入れ合戦~体育祭の戦い~に出たい人手上げてー」
何!?なんで玉入れにサブタイトルついてんだよ!!
ただの玉入れ、ではなく何故か戦国時代を彷彿とさせるネーミングが付けられていて驚きを隠せない。
「そういや今年から玉入れにちょっとしたルール?が追加されたって聞いたわ」
「だからあんな歴史的な名前になってんの?」
「そう、普通の玉入れやった後に代表者が一人で玉入れさせられるんだと」
「えっ何それは」
「言っちゃえばバスケのフリースローみたいな感じよ」
「ほーん」
割とありそうでなかったようなルールに俺は純粋に感心する。ただ玉入れをするよりもこっちの方が確かに盛り上がりそうではある。ただ一人で投げさせられる人の胃は大変そうだが。
「てか晴翔手上げなくていいのか?このままだともう決まるぞ?」
颯太にそう言われ、周囲を見てみると何とびっくり丁度募集していた人数と手を上げた人数が一致しているではありませんか。流石にこの状況から手を上げる勇気は俺にはない。
「うーん……まぁ他にも楽そうなのあるでしょ」
「他かぁ……あっ、借り物競争とかどうよ?足の速さとか関係ないし」
「借り物競争か……ありだな」
足の速さではなく、ほぼ運の良さで決まる借り物競争はある種運動が苦手な生徒への救済措置と言えるだろう。大勢の前で何か一言言わないといけないが、それくらいならまぁ無難にやり過ごせる……はず。
「じゃあ次、借り物競争出たい人ー」
「ほら、次だぞ」
「よっしゃ、必ず勝ち取って見せるぜ」
参加希望者が割と多く、じゃんけんで決めることになったが何とか勝利を収めた。これで今年の体育祭は何とかなりそうです。
体育祭の種目決めをしてからしばらくが経ち、地獄の祭典こそ体育祭が目前にまで迫ってきた。陽キャ達はうきうき、陰キャ達はげんなり……していると思われていたが、なんとこの体育祭を乗り切ってしまえば晴れて夏休みがやって来る。
そのおかげもあってかほとんどの人が明るい表情をしたまま体育祭を迎えようとしている。来年の夏休みはおそらく勉強をしなければいけない時間が増えるため、実質今年が高校最後の夏休み。今年は遊んで、だらけて最高の夏休みにするぞ。
「あっ、丁度いいとこに。晴翔ー!」
「ん?どしたの智哉」
「今さ、体育祭の準備の手伝いさせられてるんだけどさ、思いのほか人足りないらしくてちょっとだけ手伝ってくんない?」
雑用の人手探しかぁ……。それに体育祭の準備とかそれ絶対に肉体労働じゃん。そういうのは俺みたいな貧弱な奴じゃなくて他の運動部の奴に頼った方が良いと思うんだけどなぁ……。
「おっけ、分かった」
「マジ助かる!!」
とは言うものの、頼まれごとを断るのは俺のポリシーに反するので人選ミスなのでは?という考えを放置し、外へと向かう。
「ってあれ?晴翔じゃん。丁度いいからそっち持って」
「颯太も駆り出されてたか……ほい持ったぞ」
「んじゃ行くぞ?せーの!」
教室にいないなと思ったら颯太もお手伝いさんもとい雑用として駆り出されていたらしい。まぁ彼も運動部ですからね、仕方ない事ですね。
「てか晴翔何でここいんの?」
「お手伝いさんとして呼び出されたんだよ」
「あー、うん。まぁどんまい」
「よしっ!ここでおっけーだな」
「お、重たい……」
一個しか運んでいないというのに既に腕が痛い。まだ動けるし多少余裕はあるのだがそれでも腕は小さく悲鳴を上げている。我もう帰ってよろしいか?
「ちなみにまだあるから頑張れよ」
「うげぇ……」
颯太からの励ましという名の死刑宣告に俺はがっくりと肩を落とす。まぁ断らなかった俺が悪い部分もあるし、とりあえず最後まで働くとしますかぁ……。
「すんませーん!これどこに運んだらいいっすかー?」
「えと!あ、ちょ、ちょっと待ってください!!そ、それはどこだっけ……えーと……」
「………白川?」
聞き覚えのある声がしたため、そちらの方向に体を向けるとそこにはクリップボードを持ち、あれやこれやと焦っている少女の姿があった。
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