第48話 克服?
眩い光が暗闇に包まれた部屋を一瞬だけ照らす。その光があまりにも強いせいか、瞼を閉じていても今一瞬光ったなと分かってしまう。そして光が暗闇を照らしてから少しすると──────
ゴロゴロゴロゴロ………
獣の唸り声のような、或いは大地がいびきを書いたような低く、そして大きい音が耳へと伝わってくる。
「……もうちょっと早い時間帯に来てくれよなぁ……」
ベッドに入り、良い感じにうとうとして来たタイミングを見計らったかのように雷が近付いてきた。だんだんと音と光が大きくなっていくせいでぼんやりとしていた俺の意識は徐々に覚醒し始める。
寝れないと分かっていても今から起き上がって何かをする気力は無いため、雷が過ぎ去るまでの間はベッドの中で雷と雨の音を聞き流しているしかない。
再び真っ黒だった瞼の裏が白く光る。そして心の中で時間を数え始め──────
ゴロゴロゴロゴロ……
んー……近いっちゃ近いな。このまま近づいてきたら雷平気な俺でもかなり怖い感じの音が聞こえてきそうだなぁ。
俺は雷に対してそこまでの恐怖心は持っていない。ゴロゴロという低温が鳴り響いても「雷だぁ……」程度にしか感じない。しかし、流石の俺でも近くに雷が落ちてきたときの音には恐怖の感情を抱く。自然の脅威には抗えないのだ。
「お、お兄ちゃん……起きてる?」
コンコンとドアをノックした後、鈴乃がかちゃりとドアを開ける。薄暗い部屋の中、枕をぎゅうっと抱きしめている鈴乃が顔を覗かせているのが見える。
「起きてるよ」
「よ、よかったぁ……お兄ちゃん、その……」
「うん、おいで鈴」
「ありがとお兄ちゃん……」
安堵の声を漏らした鈴乃が何かを言う前に俺はこちらに来るように促す。
鈴乃は小さい頃から雷が苦手だ。小さい頃から雷の鳴る夜は俺のベッドに入り込んできていた。
「ごめんね?お兄ちゃん」
「大丈夫、そんな気にしない──────」
「きゃう!!!」
俺の言葉を遮るようにして雷が鳴り響く。それとほぼ同時に鈴乃は俺に抱き着き、隠れるようにして顔をうずめる。恐怖で震える鈴乃が少しでも落ち着くように、俺は彼女の頭を撫で続けた。
うぅ……高校生になれば雷も怖くなくなると思ってたのに……ひぅ!?
カーテンを貫通して部屋に入ってくる閃光に、私はぎゅっと目を瞑ったままお兄ちゃんの胸板に顔をうずめる。その数秒後かなり大きな音が家屋を振動させる。お兄ちゃんが近くにいるから何とかなっているがもしこれが一人だったら私は恐怖のあまり泣きわめいていたかもしれない。
「さっきの結構でかかったなぁ……鈴、大丈夫か?」
「んー……」
私はお兄ちゃんの呼びかけに対して否定とも肯定とも取れる声を上げる。雷は大丈夫じゃない、けれどお兄ちゃんがいるから何とか耐えれそうという何とも曖昧な状況だからだ。
そんな私のことをお兄ちゃんは何も言わず、ただ励ますように頭をそっと撫でてくれる。そのおかげもあってか、緊張により強張っていた体が少しずつ弛緩していく。
小さい頃から大きくなれば雷は怖くなくなると思っていた。雷が鳴り響いても一人で耐えられる、何も気にせず眠りにつくことが出来る。そう思っていたが、いざ蓋を開けてみれば私は何も変わっていなかった。昔の様にお兄ちゃんに頼ってお兄ちゃんに頭を撫でられ、そしてお兄ちゃんの暖かさに安心感を覚えて眠りにつく。
克服しなきゃとは思っていても、いざこうしてお兄ちゃんに頼ってみると、もうこのまま雷が嫌いなままでいいかもとついつい思ってしまう。
ゴロゴロゴロゴロ……
ひっ!?……で、でもやっぱり雷への耐性はもう少しだけ欲しいかも……。
「さっきから音でかいもんね。……どう?これで少しはましになるんじゃないか?」
うやぁあああああ!?!?
お兄ちゃんはそう言うと、私の耳を痛くならない丁度いい強さで塞いでくれる。突然お兄ちゃんに触れられた驚きと、耳を塞がれたときに感じる独特な音に私は小さく体を震わせる。
「どう?なるべく力は入れてないけど、痛くない?」
っ!?!?!?
耳が塞がれている状態でも聞こえるようにという配慮だろう、お兄ちゃんは耳元で小さく、そして優しく囁いてくる。
なっ、何なのこの感覚!?お兄ちゃんに耳を塞がれているだけでもかなりあれなのに、その上囁いてくるとか……わ、私耐えられないんですけど!?!?
優しさという名のお兄ちゃんによる破壊光線を受け、私の脳内は大変なことになっていた。あんなに脳内を支配していた雷への恐怖というものはいつの間にか抜け落ち、「やばい」や、「どうしよう」という語彙力の欠けた文字が徐々に速度を上げて頭の中を駆け回り始める。
「大丈夫だよ、怖くないよ」
ひょおおおおお!?!?
耳を塞がれているせいか、お兄ちゃんの優しい声が脳に直接伝わってくる。その結果何が起こるのかというと私が死にます(直球)。
それにみ、耳が気持ちいけどくすぐったい!!体がぞわってしてこそばゆい!!体が時々びくってなっちゃう!!
雷から逃れようとぎゅっと瞑っていた目が、今となってはこれでもかというくらいに大きく見開かれている。顔が見られない状況で本当に良かった。
どうしよう、私これに耐えられるのかな?出来れば早く雷が収まってほしい。じゃないと私の頭と体がどうにかなっちゃうから!!!
ちなみにこれは余談であるが、晴翔のあれこれのせいで体が震えているのに、当の本人は鈴乃が雷に恐怖していると思い込んでいた。ただまぁ、ある意味雷の恐怖を打ち消せたともいえるので晴翔的には結果オーライだったと言えるだろう、晴翔的には。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます