第47話 怒っていますpart2
「お兄ちゃん、一体どういう事?」
人気のない場所に呼び出された俺は、仁王立ちする鈴乃の前で正座をする。鈴乃は笑顔こそ浮かべているものの、明らかに機嫌が悪い。その証拠にどす黒いオーラが彼女の体に纏わりついている。めちゃくちゃ怖い。
「い、いやぁそのぉ……」
「お兄ちゃん昨日友達に傘を貸したって言ったよね?いつの間に椎名さんとそんなに仲良くなったのかな?」
「ち、違うんだ鈴!今から正直に話すから落ち着いてくれ!!」
段々と俺の錯覚がひどくなっていき、彼女のオーラが段々と俺の周りにまで浸食してきたのを見て俺は慌てて口を動かす。
「私はすごく落ち着いてるよ?私の心は冷え切ってるし、頭も冴えわたってるよ?」
確かにこっちまで肌寒くなってきたもんなぁ……って思考放棄してる場合じゃない。ちゃ、ちゃんと鈴乃が納得するように順序良く、それでいて堂々と事のあらましを説明しなければ。
「ほらお兄ちゃん。どういう経緯なのか説明して?私怒らないからさ?」
「実は昨日普通の傘と折り畳み傘の二つを持ってたんだ。それで折り畳み傘の方を友達に貸して、もう一本の方を──────」
「椎名さんに貸したの?」
「そ、そうなんだよ!帰ろうと玄関に着いたとき、あの子が空を見上げながらため息を吐いてたからさ。女の子がずぶ濡れになって帰るよりは俺がなった方が良いかなって思って」
「ふーん……お兄ちゃん、他に何か隠し事してるでしょ?」
か、勘が鋭いことで……。
事情を説明し終わっても、まだこちらに微笑みかける鈴乃を見て、指でなぞられたよう時のように背中がぞくりとなる。よ、良く体を揺らさなかった俺。マジファインプレー。
「いや、これ以上は何もない。隠し事なんてしてないよ」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
青葉に……同級生の女の子の傘に途中まで入れてもらいましたって言ったら大変なことになる。そんなことになれば数日間は鈴乃の機嫌は斜め下方向どころか垂直に。落下していくことになる。俺の胃痛を犠牲にし、鈴乃の機嫌を特殊召喚しないといけなくなってしまう。
「……確かに昨日変な匂いとかなかったしこれ以上は何もないかな……」
「鈴、何か言った?」
「ううん、何も言ってないよお兄ちゃん。それと正座しなくてもいいからね?」
お、いつもの鈴乃に戻ってる。よ、良かったぁ……ひとまず窮地は脱したかな?
俺は制服に着いた汚れを軽く払ってから立ち上がる。俺がここ数年で身に着けてきた鈴乃の問答を美味く回避する技術が今日も光りました。ちなみに数回爆発して鈴乃の機嫌が大変なことになったことがあります。あの時は辛かったぜ……。
「でもお兄ちゃん!私はまだ少しだけ怒っています!!どうしてか分かりますか?」
「そ、そうだなぁ……俺が怪我してるのに他の人を優先したから?」
「それも確かに正解だけど今回は違います」
昨日と同じようなことを言われたため、反省を生かして昨日貰った正解を答えたのだが今日はどうやらそれとは別のことで怒っているらしい。
「うーん……ごめん分かんないや」
「正解はお兄ちゃんはもっと自分がした行動に責任感を持つべき、です!」
「責任感?」
「そう、責任感」
俺の頭の中に多くの疑問符が発生する。いきなり責任感と言われても何に対して責任を取らなければいけないのか皆目見当もつかない。
「昨日も言ったけどお兄ちゃんが優しいのはすごく良いことだよ?でもねお兄ちゃん、何も考えずに優しさを振りまくといつの日か大変なことになっちゃうんだよ?」
「大変なこと?」
「そう、例えば椎名さん!あれは完全にお兄ちゃんのこと気になってる顔だった!どこかしらのタイミングで絶対にお兄ちゃんとの距離を詰めようと考えてる顔してた!!」
「ははは、そんなことないって。たかだか傘を貸しただけでそんな大袈裟だよ
「でもその傘の貸し借りだけにこんなお菓子を用意すると思う?」
「それは……確かにそうかもしれないけど。ほら、あれだよ。椎名さんが律儀なだけだよ」
「そんなことない!……こんなマドレーヌなんか用意しちゃって絶対お兄ちゃんの事狙ってるよ」
後半の方は上手く聞き取れなかったが、こんなに向きになる必要があるのだろうかと頭を悩ませる。もし仮に俺がイケメンだったらまだ分からなくもないけど俺はただのフツメンで平凡な一般高校生だぞ?そんな都市伝説めいたことなんて起こりはしないだろ。
「まぁとりあえず気を付けるよ」
「とりあえずじゃなくて絶対に気を付けて!!」
「は、はい……」
グイっと顔を近づけられた俺はその圧に押されるがまま返事をする。大丈夫だよ鈴、だって俺これまでに彼女出来たことなんてないんだぞ?そんな俺が今更モテるなんてことあるはずないじゃん。……言ってて悲しくなってきたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます