第46話 呼び出し
「晴翔、昨日はマジ助かったわ。ほいこれ」
俺の机に購買で買ってきたであろうプリンが置かれる。おそらく昨日傘を貸したことへのお礼といったところだろう。昼休み始まってどっか行ったなと思ったら購買に行ってたのか……なんと律儀な奴め。
「おう、というか別に気にしなくても良かったのに」
「まぁまぁ、そのくらい助かったってことよ。さすがに部活終わりでずぶ濡れはしんどかったからさ」
「そっか、んじゃまあありがたく頂くとするかな」
それからはいつも通り談笑をしながらお昼ご飯を食べ進めていく。お弁当を食べ終え、丁度貰ったプリンに手を付けようとしたその時、クラスの女子にとんとんと肩を叩かれる。
「高橋君、何かあの子が用事あるみたい」
「伝えてくれてありがとう、すぐ行くよ」
ちらりと扉の方を見てみると昨日傘を貸した子がひょこりと顔を出していた。目が合うと会釈をされたため、俺も同じように会釈を返す。わざわざ教室にまで出向いてくるなんて……みんな律儀だなぁ。昨日傘立てに刺しといてくれればいいって言っとくべきだったな、ちょい反省。
「先輩!昨日は傘を貸していただきありがとうございました!これ、つまらないものですがもし良かったらどうぞ!」
「……ありがとう」
俺は表情を崩さないように、穏やかな笑みをたたえて彼女から紙袋を受け取る。油断すると今にでも表情が崩れそうで、いつもよりも背筋がピンとしている。
な、何故鈴乃がここにいるんだ……。
おどおどとしながら紙袋を渡す少女の後ろに、ニコニコと笑顔を浮かべている愛しの妹の姿があった。学校での鈴乃の姿は何度も見ているため、今更彼女の優等生スマイルに違和感を持つことは無いのだが、今の彼女は一味違う。
あ、圧……圧がすごいよ圧が!!
ゴゴゴゴゴゴという擬音が見えてしまうほどに彼女からは圧が放たれていた。「お兄ちゃん、これってどういう事?詳しく教えて?」という言葉が幻聴として聞こえてくる……わりぃ、俺死んだわ。
「んんっ!わざわざお礼なんてしなくて良かったのに、なんか気を遣わせちゃってごめんね?」
「いえ、ただ私がお礼をしたかっただけなので先輩は全然気にしないでください!」
「そっか……それで、ちなみになんだけどさ。どうして後ろに鈴がいるの?」
「その……一人で先輩のいる教室を探すのが怖かったのでついてきてもらったんです。そしたらまさか鈴乃ちゃんのお兄さんだとは思いもしませんでした」
「そういうことです、兄さん」
「そ、そうなんだね……」
鈴乃の笑顔が突き刺さって痛い。絶対これ後で徹底的に詰められるやつだわ……。
「いつも鈴がお世話になってます、良かったらこれからも仲良くしてあげてね」
「は、はい!もちろんです!!というか鈴乃ちゃんには迷惑をかけてばっかりで……」
「ふふふ、私は迷惑だとは微塵も思っていませんよ?むしろ可愛いと思ってます」
「す、鈴乃ちゃん……恥ずかしいよぉ……」
い、妹が俺の目の前で女の子をたらしこんでいる……ま、まぁ女の子同士だからそういう発言をしてるんだと思うけど、あんまりそうやって甘い蜜を与えると大変なことになりかねないから気を付けてね?お兄ちゃん心配だよ?
「あ、そうだ!先輩、お借りしていた傘は2年生の傘立ての右端の方に置いておきました!」
「了解、わざわざありがとね」
「いえいえ!こちらこそ傘を貸してくださりありがとうございました!それでは失礼します!!」
「どういたしまして、それとこれありがとね」
ぺこりと頭を下げてから少女と鈴乃は去っていった。
「めちゃくちゃ礼儀正しい子だったな…………oh」
2人の姿が見えなくなったため、教室に戻ろうとした次の瞬間俺のポケットから振動が伝わってくる。何だろうと思いスマホの画面を見てみるとあらびっくり。
『お兄ちゃん、今から話せる?』
という我が愛しの妹からの呼び出しメッセージが届いていたのである。妹からの呼び出しを断れるもなく、『今すぐ行くよ』と返信をし虚空に向かって乾いた笑みを浮かべた。
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