第50話 説明しよう!

「えっと……えーと……」


「それグラウンドの本部テントの隣まで持って行ってくださーい!」


「了解でーす!」


「せ、先輩……?」


「よ、確か合ってるよな?」


「えっと……はい、問題ないです」


 俺は颯太に一声かけてから白川の所へと向かった。一体どういう事なのか白川は困惑を隠しきれず、視線がしどろもどろになっている。まぁ、いきなり指示を出したらそりゃそうなるよな、なんかすまん白川。


「白川って生徒会に入ってたんだ」


「いえ、私は体育祭実行委員会です」


「あ、そっちかぁ」


「というか先輩こそ何でここにいるんですか?というかなんでそんな迷わず指示出せたんですか?」


「そんな二つ同時に聞かれても困る」


「す、すみません……」


 色々動揺してたから仕方がないとは思う。ただおじさん、もうちょっとだけ落ち着きを取り戻しても良いと思うよ。


「んーと、まずここにいるのは雑用係として。そして指示を出せたのは去年こういうのに携わってたからかな」


「先輩も去年体育祭実行委員会やってたんですね……意外です……」


「そっちじゃないんだなぁ」


「へ?」


「俺、去年生徒会入ってたんだよ。だからちょっと覚えてたってだけ」


「先輩生徒会入ってたんですか!?……あ、いやでもちょっと納得かも」


 驚く……には驚いたんだけどその後変に納得されてしまった。そんなに納得する要素あるかぁ?


「というか今年は生徒会入ってないんですね」


「まぁね、俺には向いてないと思ったから辞めた」


「……向いてると思うんですけどねぇ」


「とある人にもそう言われたよ」


 というか顔を合わせる度に今も言われてるんだけどね。


「あっ、遅れちゃいましたけどさっきは助けてくれてありがとうございます」


「気にしないで。初めてだからてんぱっちゃうのは仕方ないよ」


「うっ……一応書類には目を通したんですけど……いざ声を掛けられると焦っちゃって……」


「どんまいどんまい、白川がそんなに気負うことないって。いざとなったら先輩たちに声掛ければいいから」


「はい……ありがとうございます」


 初めて何かを企画する側に回るとめちゃくちゃ緊張するし焦るよな。俺もその気持ちよく分かるぞ、うんうん。心の中で後方腕組をして昔のことを思い出す。わしも昔は良く働いたもんじゃ……。







「あっ、先輩!先ほどはありがとうございました。すごく助かりました」


「気にしないで。一応部外者が口出しするのは良くないことだからさ、あんまり皆……特に生徒会の人には言わないでおいて」


「わ、分かりました?」


 放課後になり、特に用事のなかった俺は玄関へと向かうと、鈴と白川の二人にばったりと出くわした。白川は深々と頭を下げて俺に感謝の言葉を告げる。後輩を助けるのも先輩の役目だからそんなに気にしなくてもいいのになぁ。


「兄さんと何かあったの椿?」


「うん、さっき体育祭の準備で困ってるところを助けてくれたの」


「そうなんだ、それじゃあ帰ろっか椿。じゃあ兄さん、また後で」


「お、おう……」


 最近鈴乃が俺のことを避けている気がして仕方がない。家でも学校でも以前であれば構ってほしそうにしてたり、くっついてきたりしていたのだが最近は妙に距離が遠い気がする。


 時々構ってほしそうな視線を向けたりはしているのだが、いざ目が合うと即座に目線を逸らされてしまうのだ。


 何かに怒ってるわけでもなさそうだし……うーむ、まぁ鈴乃的に何か思う所があったのかもしれない。まぁ思春期ですからね、これをきっかけに兄離れするかもしれないし大人しく見守ることとしましょう。







「ねぇ鈴ちゃん」


「ん?どうしたの椿?」


「先輩と何かあった?」

 

 私はびくりと肩を揺らす。椿からまさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったので私の体に動揺が走ってしまう。


「べ、別に?そんなことないよ?」


 い、言えない……お兄ちゃんの顔を見る度にあの日のことを思い出しちゃうなんて絶対に言えない……。


 説明しよう!(突然のテロップ)


 お兄ちゃんと一緒にいたり、触れ合うことで彼女に充電されるお兄ちゃん成分、それを摂取することで鈴乃は優等生としてキリリとした態度を常に保つことが出来ている。


 お兄ちゃん成分が欠乏すれば、ぼろが出るようになるし、優等生モードが途中で切れてしまう恐れがある。しかし、お兄ちゃん成分は過剰摂取しすぎても鈴乃に悪影響を及ぼしてしまうのだ。


 鈴乃のキャパシティ以上にお兄ちゃんと触れ合ったり、お兄ちゃんにべったべたに甘やかしてもらうと彼女はぐでぐでに溶けてしまう。これだけならまだすぐに回復するのだが、これ以上にお兄ちゃん成分を過剰摂取してしまうとしばらくの間彼女の体に異変が起こる。


 そう、脳みそが過剰なお兄ちゃん成分に対して防衛反応を起こし、晴翔との距離を一時的に遠ざけようとするのだ。そのせいもあり、ここ数日の間、晴翔との会話は必要最低限のものになり、晴翔との距離もかな~り離れている(当社比)。


 結局何が言いたいのかと言うと、お兄ちゃん成分がオーバーフローして恥ずかしさが前面に出てきてしまったのである。by天の声


「そっか、それならいいや」


「うん、特に何もないから気にしないで。そういえば椿って何の競技に出るんだっけ?」


「んーとね、私は──────」


 その後鈴乃と椿はお兄ちゃんのことについて特に話すことは無く、体育祭の話題で盛り上がりいつもと同じく楽しい下校時間を過ごした。








 白川「うーん……先輩と鈴ちゃんの距離感とか空気感がいつもと違う感じがしたけど……喧嘩とかしてないみたいだし、まぁいっか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る