第51話 体育祭
長い間雲に隠れていた太陽が、今までの鬱憤を晴らすかのようにギラギラと輝きを放つ。その輝きに植物たちは喜び、大地は熱を帯び、そして人間たちもそれに感化されたように熱狂する。
「皆まじで元気だなぁ……こんなにあっついのに」
「お前がテンション低すぎるんだよ、ほらもっと声出せ声」
「が、がんばれー」
とうとう始まってしまいました。陽キャ達の祭典、体育祭。いやぁ、皆熱気がすごいですね。ただでさえ太陽が照り付けているというのにここだけ他の場所よりも数℃気温が高そうです。
「ほら、美緒走ってるぞ。幼馴染として応援した方が良いんじゃないか?」
「美緒ー、とりあえず頑張れー」
「とりあえずいらんだろ……」
幼馴染に適当に応援の言葉をかける。ちなみにその後美緒は一位を獲りました。よし、俺の応援のおかげだな!
「次の競技は……一年の障害物競争だな」
「ついに来たか……よし颯太、前の方行くぞ」
「おいちょ!いきなりどうしたんだよ」
「この競技には鈴が出る、何としてでも最前列で見なければ」
「このシスコンめ……」
今日の体育祭はこれを見に来たと言っても過言ではない。妹の頑張っているところを見ずして何がお兄ちゃんか。出来ればカメラでその雄姿を写真に収めたかったのだが、もちろんそんなことをすれば一発で生徒指導の対象になるため、大人しく瞳という名のレンズに収めるしかない。
「ほら、始まるぞ」
「いちについて、よーいどん!」
スターターピストルの音とほぼ同時に一斉にスタートする。今回のレースではまず縄跳びをして、次に網をくぐり、飴玉を探して、最後に体育祭実行委員会の人にあっち向いてほいで勝つというのがゴールするのに突破しなければいけない障害物である。
後半の障害物、特にあっち向いてほいがあまりにも運ゲーすぎる。どれだけ効率よく他の障害物を突破しても全然最下位になる可能性があるという、障害物競争らしいと言えばらしいのだが沼ってしまった生徒からしてみればかなりのクソゲーとなっている。
頑張れ鈴………お兄ちゃん応援してるからな……!
心の中で後方腕組お兄ちゃん面をしながら、鈴乃の姿を静かに見守る。最初の縄跳びと次の網くぐりを難なく突破し、現在は飴玉探しに苦戦を強いられている。出来れば粉まみれになってほしくないけど……。
「あーっと!ここでようやく到着した青軍の生徒がいきなり粉の中に顔を突っ込んだー!!これには隣で飴玉を探している他の生徒も戦慄の表情を浮かべています!!」
「一定数入るよなああいうやつ」
「颯太、お前も去年あれやっただろ」
「ハハ、覚えてないなぁ」
白粉でも塗ったのかというほど顔面真っ白になって帰ってきた男が何を言っているのやらと呆れていると、鈴乃がようやく飴玉を発見し、最後の関所であるあっち向いてほいゾーンに突入する。頼む、沼らないでくれ。
「あっ、相手白川じゃん。勝ったわ」
「白川?」
「そう、鈴の友達。これワンチャン1位あるな」
「妹の不正を願うなよ、それでも兄か」
現在1位の人が無事沼っているため、鈴乃にも1位を獲るためのチャンスはある。それに対戦相手が白川だ、鈴乃が1位を獲るためにきっと忖度してくれることだろう。この勝負……勝った!!
「紅軍、ようやくゴールです!!」
「嘘だろ……」
「なんかめっちゃ時間かかったな。まぁある意味盛り上がったっちゃ盛り上がったな」
なんという事でしょう、我が愛しの妹たる鈴乃は底なし沼にハマってしまいました、まさかのあっち向いてほいゾーンを突破するのに5分以上かかるというなんとも悲しい結果になってしまった。
今ここにいる観客全員、少女二人が一生あっち向いてホイをやっている絵面を見せられるとは思ってもいなかっただろう。来年修正入るやつだなこれ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます