第52話 借り物競走

 午前の部が無事に終わり、お昼休憩の時間となった。お昼休憩が終わってすぐ借り物競走が始まるため、正直のんびり休憩できる気がしない。まぁお祭り競技だからそんなに気にする必要もないとは思うけども。


「晴翔ー、どこで飯食う?」


「適当に人いないところで良くない?颯太も弁当でしょ?」


「弁当。それじゃあまぁ適当に探しますかぁ」


 体育祭が行われている中でも購買と学食は開いている。そのためお昼休憩が始まって速攻で学食へダッシュした生徒も多数見受けられた。あの速度で走ったら余裕で1位取れるんだろうなぁとか思いながら俺は引き気味に見てました。


「てかいいのか?」


「何がだよ」


「いや、晴翔のことだからてっきり妹ちゃんと一緒に食べるのかと思ってたからさ」


「確かに」


「いや何納得してんの?」


 颯太の発言に俺は思わず納得してしまう。確かにいつもこういう時は鈴乃と一緒にお昼ご飯を食べたりしていた。小、中学校といつも鈴乃とお昼ご飯を共にしてきたのだが─────────


「多分鈴も友達と一緒に食べてるだろうから大丈夫だよ」

 

 そう、なんと最近になってようやく鈴乃との距離が落ち着いてきたのだ。前よりも明らかに会話量が減ってしまいちょっと…少し……かなり悲しい部分もあるが、これも思春期によくある現象だろう。嫌われている訳でもないし、ここは悲しみをぐっと堪える時期だ。


「お前……」


 とうとう兄離れ兼妹離れが出来てさぞ驚いただろう颯太。俺の成長と鈴乃の成長にとくと震えるがいい!!


「どっか頭打ったりしたか?大丈夫か?」


「打ってねぇわ」


 なんだこいつ、せっかく兄妹の適切な距離というものを手に入れたというのに薄情な奴め。もう少し驚いたり、賞賛してくれたりしてもいいだろうに。


「まぁあんまり妹ちゃんを泣かせるようなことすんなよ?いくらあの子が晴翔大好きっ子だったとしてもいつか愛想尽かされるかもしれないんだからな?」


「だからなんで俺が悪いことした前提なんだよ。俺が鈴になんか悪いことしたら即謝るっつうの」


「そういえば晴翔は妹に言われれば泥水でも啜るような奴だっわ」


 呆れたように笑い、弁当を口に運ぶ颯太を横目に俺も同じように箸を進める。全くこいつは俺のことをなんだと思っているんだ。それと俺の妹がそんなことを言うはずないだろ、まぁ可愛くお願いされたら飲むのもやぶさかじゃないけども。


「あ、てか玉入れ意外に面白かったな」


「確かに、運動が苦手な人用の競技があんなに盛り上がるとは思わなかったわ」


 妙なサブタイトルがついていた玉入れだったが、俺が見た玉入れの中で1番と言うほどに盛り上がっていた。


「望月さんの時やばかったな」


「な、本人は恥ずかしそうにしてたけど」


 大将に選ばれた青葉は、観客全員の前で一人玉入れをすることになった。可哀想なことに相手の軍の大将がバスケ部というぶっちゃけ勝てる気がしない相手だったが、それでも勇猛果敢に食らいつき、5個中1個を入れることに成功した。え?お相手さんは何個入れたかって?……よ、世の中知らない方がいい事もあるんですよ。


 し、しかし青葉への応援はとても凄いことになった。同じ軍からはもちろんまさか別の軍からも応援が飛んでくるという物凄い光景が生まれていた。お祭りという枠組みで見れば、つまらない競技と思われがちな玉入れが面白くなり大成功と言えるだろう。……あ、後で青葉にジュースでも奢って励ましとこ。


「次は借り物競走と部活動対抗100m走やってリレーで終わりか。割とあっという間に終わりそうだな」


「次俺の出番かぁ……やだなぁ」


「安心しろって。そんなお前のこと見てるやついねぇよ」


「励ましてくれてるんだろうけど全然嬉しくないわその言葉」









 お昼休憩が終わり、とうとう俺の出番がやってきた。出走する競技は借り物競走、ルールは簡単少し走ってテーブルに置かれている紙を取り、その紙に書かれている物、ないしは者を連れながらゴールすればいいというわかりやすいルールとなっている。


 出来れば簡単かつ目立たない物がお題だったらいいなぁと考えているとあっという間に順番が進み、ついに俺の番が回ってくる。


「位置に着いて、よーいどん!」


 スターターピストルの破裂音と共にテーブルへ向かって一目散に駆けていく。さてとお題は────────


「げっ!」


 紙に書かれている文字を見て俺は思わず声が出てしまう。正直この沢山あるお題の紙の中から一番のハズレを引いたと言っても過言ではない。こういうのがあるのは納得できてもいざ自分が引くと最悪以外の何物でもないな。


 この場から動きたくない……というかこのまま棄権したいところだけどそうも行かないか。


「はぁ〜……」


 俺はため息をつきながら自分の軍の元へと向かう。


「颯太いるー?」


「颯太ならついさっき連れてかれたぞー」


「マジかよ……」


 このお題で事を荒立てずにクリア出来る唯一の人物が何者かに連れ去られてしまったらしい。つ、詰んだ……。美緒に頼むか?いやでも流石に美緒に迷惑かけちゃうしなぁ……。茜先輩…も流石になぁ。まじでどうすっかなぁ……。



「………やむを得ん、多少迷惑がかかると思うけど頼むしかないかぁ」

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