第75話 前言撤回
「お、やっと来たみたいだね。少し遅いぞ晴翔君」
「す、すみません……」
集合場所には既に俺を除く部員全員が集まっており、楽しそうに雑談をしていた。小走りで向かってきたが、数分遅れてしまった。これなら全力疾走すればもしかしたら間に合ってたかもなぁ……。
あれ?というか茜先輩割といつも通りに接してくれるな……。てっきりもうちょっとぎこちない感じになると思ってたけど……俺が気にし過ぎてただけか?
いつものように声を掛けてくる茜先輩、どうやら俺だけが変に気まずさを感じていたらしい。あれか、友達だと思ってたのは俺だけだった的なサムシングか。……え、はっず。
「これで全員揃ったみたいだね。よし、それじゃあ『ドキドキ、夏の肝試し!~学校の七不思議編~』についての説明をしていくぞ!はい、拍手~!」
茜先輩の言葉を聞いて一年生ズはノリノリで拍手をする。友達とこうして肝試しをするのが随分と楽しみらしい。表情や動きからワクワクしているのが伝わってくる。
「うむ、テンションが高くて非常によろしい!今日は七不思議の真偽を確認するべく、夜の学校を探索する。時間に余裕があるわけではないからそこら辺は各自注意するように。あ、それと雰囲気を大事にするため電気は基本付けずに回っていく。足元には十分に注意しながら歩いてくれたまえ。ここまでで何か質問ある人はいるかい?」
内容が至ってシンプルなため挙手する人はいない。まぁただ暗闇の中校内を回るだけだからね。
「じゃあ早速行くぞ~!」
意気揚々と校内へと足を踏み入れる茜先輩。企画しておいて実はホラーが大の苦手でした~、みたいな感じかと思っていたが……どうやらそんなことはないらしい。
「……青葉、大丈夫そう?」
「え、えぇ……ホラーはあまり得意じゃないけど皆と居れば多分……大丈夫なはず」
「そっか、まぁあんまり無理はするなよ?駄目そうだなって思ったらすぐ抜けていいからな?」
「ありがとう、そうするわ」
「ひっ!ぜ、ぜぜぜ絶対こっち見た今!あの絵動いたよ!?」
「……動いてないと思いますけどね」
「絶対動いた!」
……前言撤回させてもらいます、茜先輩ホラー超苦手でした。現在美術室にて絵画がこちらを見てくるのか否かを調べているのだが、今のところその気配はない。気味が悪いのは確かだが特に変なところはない。
「先輩、そろそろ腕を離してもらっても……?」
「晴翔君は私に死ねと言いたいのか!?」
「どんだけ追い詰められてるんですか」
逃げ腰の状態で俺の腕をがっしりと掴み、周囲を警戒する茜先輩。非常に歩きづらいし、地味に痛いためそろそろ離れるか、力を抜いて欲しい。
「とりあえず次行きますか、時間もあまりないですし」
「あ、あぁそうだね。早くここから出ようか」
「ちょ、引っ張らないでくだ───────」
ゴンッ!!
静かな音楽室に何かがぶつかったような鈍い音が響き渡る。
「ぴやあああああああ!?!?」
「ちょ!?茜先輩……うぐっ!」
物音にビビり散らかした先輩は凄まじい勢いで俺に向かってダイブしてくる。みぞおち付近に茜先輩の頭が突き刺さり、呻き声が漏れ出てしまう。
「ったたた……」
「大丈夫?」
「大丈夫ちょっと腰がぶつかっただけだから」
「もう〜暗いから気をつけてよ?」
どうやら1年生ズの1人が机にぶつかった結果あの音が鳴ったらしい。暗いからね、仕方ないね。
「先輩、流石に離れてください」
「でも……」
「原因も分かったじゃないですか。……それにそんな抱きつかれると動けないんですよ」
「……っ!?す、すまない晴翔君!!」
ようやく冷静さを取り戻し、今の自分の状況を理解したのか慌てて距離を取る茜先輩。……や、やめて!そんな恥ずかしそうな顔しないで!気まずくなっちゃうでしょ!
もじもじしながらこちらをちらちら見てくる茜先輩。そんな急に意識されると困るんですよ、凄く居た堪れないんですよ。
まだ始まったばかりだと言うのに俺と茜先輩の空気はかなり最悪に近いものになってしまった。……先が思いやられる。俺この気まずい状態で肝試し完走できる気しないんですけど。
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