第4話 初めてのお出掛け

 第二の人生が始まってから数日が過ぎた。現在学校は春休みのため行かなくて良いが、鈴乃は学校の説明やら見学のため本来は行かなくても良い学校へと足を運んでいる。


 後1週間もしないうちに学校が始まると考えると少し憂鬱だが、俺には前世の知識がある。ただ、この知識を使って無双したり、クラスのリーダーになろうとは考えていない。正直言ってめんどくさそうだし、無双しても元が平凡な人間なためどこかしらで天井に激突してしまう。そうなれば今は神童扱いされても数年後にはただの平凡なイキリになる未来が見えたのだ。


 前世では人生やり直せたら絶対無双するわぁとかほざいていたが、いざこうしてみるとそんな感情はあまり湧いてこないな。まぁ俺の最大の目標が家族と友人を大切にして、そして妹をめちゃくちゃに甘やかすだからそういう欲望が湧いてこないのかもしれない。両手に収まる幸せだけで十分なのですよ。


「晴翔、のんびりしてばっかだけどちゃんと宿題はしてるのか」


 リビングでお菓子を摘まみながらテレビを見ていると父さんからそう声が掛かる。


「大丈夫だよ、もうほとんど終わってるし」


「そうか?それならいいんだが……最終日に泣きついてきても手伝わないぞぉ?」


 そう、人生やり直したからこそ分かる。課題は出来るだけ早く終わらせた方がいい。昔は徹夜で泣く泣く手を動かしては、次の日体から聞こえてくる悲鳴に悶絶したが今の俺は違う。課題は計画的に行い、余裕を持ってこの長期休暇を満喫しているのだ。ふっふっふっ……マイパッパよ、俺が今後の長期休暇の最終日において涙を流すことは二度とこないのだ!!


「そうだ晴翔」


「んー?」


「明後日、鈴乃ちゃんに近所を案内してあげなさい」


「いいけど……急だね?」


「ああ、実は明後日葵さんとその……出かける予定があってな。そんなに遅くはならないと思うんだが、その間鈴乃ちゃんの相手をして欲しいんだ」


 ふーん、なるほどねぇ?いやぁ、葵さんとデートですかぁ。これはこれは……父さんもまだまだ若いですなぁ。


「……なんだよその目は」


「別にぃ?」


 まぁ俺も鈴乃と親睦を深めたいと思っていたし丁度いい。パッパ、お互いに上手くやろうな。


 葵さんと鈴乃ちゃんが来てからの生活は割と上手く行っている。もちろんまだ違和感は残っているが挨拶を交わしたり、食事中に雑談を楽しむなど同棲を始めて数日なことを考えると順調ではある。


 前世では常に部屋に籠り、食事中の会話はおろか、挨拶すらしていなかった前世と比べるとかなりの進歩だ。


「おっ、帰ってきたみたいだ。まぁそういうわけだから明日は鈴乃ちゃんのことよろしく頼むぞ、晴翔」


「任せてよ父さん、そっちも葵さんと楽しんできてね」


「……晴翔にそう言われる日が来るとは思わなかったよ」


 おっといけない。これからは発言にも気をつけねば……。






「それじゃあいこっか鈴乃ちゃん」


「う、うん……」


 俺は父さん達を見送った後、近所の案内をするため鈴乃と外へと出掛ける。誘うときは拒絶されないかと少しひやひやしたが意外にもすんなりと了承してくれた。鈴乃に対しては、彼女の性格もあって中々積極的になりにくい。


 もし俺がぐいぐい行って嫌われでもしたら今後の生活が気まずいものになるのは間違いないし、俺がこの世界で掲げている目標への道が閉ざされてしまう。それだけは避けなくてはならない。出来るだけ慎重に、彼女との距離を縮めていかなければならない。


 俺は鈴乃に近所にある公園やコンビニ、スーパーなど様々なお店を紹介していった。こういうのは一人で探検したいという人もいるため、全部を紹介しきるのは良くないかなぁという考えが頭をよぎったが、鈴乃は俺の説明や話を首を縦にぶんぶん振りながら聞いてくれたため、近所にあるお店の大半を紹介しきってしまった。ま、まぁ鈴乃は人見知りだし、全部を紹介してしまっても問題ないだろう。


「とまぁざっとこんな感じだな」


「あ…ありがと……」


 ……うん、ちょっとだけ。まじほんのちょっとだけ気まずいわ。出来るだけユーモアにあふれた感じで説明したつもりではあったけど面白くなかったかなぁ……。ちょっと面白さの感覚が現代っ子とはずれているかもしれないし、後で葵さんに「今日つまんなかった」とか言ってるの想像したら普通にショックで泣きそうなんだけど。そうならないためにも何か鈴乃の機嫌が良くなるようなことをしなければ……。


 ちなみに余談だが、このとき鈴乃は晴翔とのお出かけをかなり楽しんでいた。が、無口で俯き気味だったため晴翔は彼女が楽しそうな顔をしているのに気が付いていないのである。


「あっ、そうだ!」


「……どうしたの?」


 鈴乃は首を傾げ、俺の顔を覗く。

 

「俺行きたいところあるんだけどそこ寄ってもいい?」


「えと…うん、いいよ─────きゃっ!」


「んじゃ行くぞー」


 俺は鈴乃の手を取り、目的地へ向かって歩き始める。鈴乃は小さく声を出すも、その時の俺は「これなら鈴乃、絶対に喜ぶぞ」という考えで埋め尽くされており、全く耳に入ってこなかった。


「よし、到着!……って鈴乃ちゃん?」


 やっべ、少し早歩きしすぎたか?


 ほんの少し顔を赤らめ、こちらを鋭い視線で見ている鈴乃。う、浮かれすぎてて彼女への配慮が足りなかったあああ!!もう少しゆっくりと歩くとかそういう配慮するべきだろ俺!なに頭まで小学生になってんだよ!!


「ごめん鈴乃ちゃん!ちょっと歩くの早かったよね、ごめん!!」


 俺は握っていた鈴乃の手を放し、顔の前で手を合わせて謝罪する。


「別に……大丈夫。ここは……駄菓子屋さん?」


 そう、俺が寄りたかった場所は駄菓子屋さん。どうすれば鈴乃が喜んでくれるかを考えた結果、お菓子を買ってあげれば多少なりとも喜んでくれるのでは?という答えが導き出された。単純だが、子供にはかなり効果的なのではないだろうか?


「そう、鈴乃ちゃん好きなの選んでいいよ」


「えっ……いいの?」


「うん。あーでも、父さんと葵さんには内緒な?」


 駄目。というわけではないが、もし葵さんの教育方針の中に買い食い禁止とかあったら鈴乃ちゃんが後で怒られてしまう可能性があるため、一応内緒にしてもらうことにした。


「うん、分かった!その……お、おに……」


「ん?何か言った?」


「…ううん、ありがとう」


「いいよいいよ、気にしないで」


 よし、お兄ちゃんとしてしっかりと妹を甘やかすことが出来ている。あんまり鈴乃と仲良くはなれなかったが、まぁ良しとしよう。これから先は長いからね、少しずつ親睦を深めていこうじゃないか。

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