第85話 相談後の一波乱
「なぁ晴翔、お前なんかあっただろ?」
「……なんもないよ」
屋台をある程度回った後、俺たちは焼きそばやたこ焼きなどのご飯を買い、休憩がてらベンチに座ってご飯を食べ進める。
「嘘は良くないよ?それに普段と様子が違うの、もうばれてるんだからね?」
「美緒の言う通りだぜ晴翔。今日のお前元気ないし、どこかぼんやりしてるし分かりやすすぎるっつうの」
出来るだけ顔に出さないつもりにしてたのに……知らないうちに漏れ出てしまっていたらしい。こんなお祭りの日に変に気を遣わせてしまい、申し訳ないという気持ちが込み上げてくる。
「んー……まぁちょっとな。でもそんな大したことじゃないから気にしないで。変に気を遣わせちゃってごめん」
「良いって良いって。ほれ、話してみ?何か手助けできることがあるかもしれないし」
「そうそう、そっちこそ気を遣わずに何があったか洗いざらい教えてよ~」
それただ俺の悩みを聞いて冷やかしたいだけの人のセリフでは?
さて、どうするべきか。別に颯太と美緒になら話しても良いのだが……うん、一人で悩んでて解決してないんだし、こういう時は友人に相談するべきだな。
「実は……俺、鈴に嫌われてしまったんだ」
俺の言葉を聞いた颯太と美緒は同時にむせる。ゲホゲホとせき込んだり、水を飲んだりして喉の調子を整えた後、二人は示し合わせたかのように見つめ合い、ため息を吐く。
「「そんな訳ないでしょ」」
やや呆れの混じった声音に俺は少しムッとする。俺は真剣に悩んで、今の状況に絶望しているというのに
その態度は失礼じゃないだろうか?それが相談に乗る人の態度か、冷やかしなら帰ってくれ。
「だって……あの鈴ちゃんだよ?鈴ちゃんが晴翔の事嫌いになるとか……明日地球が滅ぶって言われた方が信憑性あるよ」
「だな、あの子に嫌われるとか、法犯して嫌われるかどうかのレベルだからな?」
「そう思えたら良かったんだけどね。実際嫌われてるからこうして悩んでるんだよ」
「まぁまぁ落ち着けって。ほれ、何があったか詳しく話してみ?」
「……実は──────」
俺はある程度の事情を二人に話す。もちろん肝試しの事なんかは上手い事濁したが、鈴乃との約束を破ってしまったこと、それに付随して鈴乃の機嫌が悪くなるような言動をしてしまったことを話す。
「なるほど……鈴ちゃんの目を盗んで女の子とイチャイチャしてたら機嫌が悪くなっちゃったと」
「い、いや、別に女の子とイチャイチャしてた訳では……」
「あんまり幼馴染を舐めない方が良いよ~?それで、鈴ちゃんの態度がすごく冷たくなっちゃって嫌われたと勘違いしちゃったわけか」
「勘違い……というより実際嫌われちゃったんだけどな」
「もぉ……普段はきもいくらいにシスコン極めてるのにどうして今はそんなに萎れてるのさぁ!」
どうして……それはあの鈴乃の態度を見れば分かるからだ。氷を身に纏ったかのように冷ややかな視線と声音。脳にこびりついた記憶が、体と心に鞭を打ち付ける自己嫌悪が自分は嫌われたのだという死刑宣告を俺の眼前で見せつけてくるのだ。
「あのねぇ晴翔!鈴ちゃんが晴翔のことをどれくらい大切に思ってるかとか考えたことないの!?確かに約束を守ってくれなかったことについては怒ってるかもしれないけど、それだけで晴翔のことが嫌いになるはずないでしょ!」
「でも……」
「でもじゃない!!」
「ぶへっ」
美緒は俺の頬を両手でぎゅっと挟む。そして俺の顔をしっかりと見つめて続きの言葉を投げかける。
「晴翔が鈴ちゃんのことが好きなように鈴ちゃんも晴翔のことが好きなの、分かってるでしょ?鈴ちゃんも今仲直りしたいって思ってるはず。それなのに肝心の晴翔がこんな卑屈になってたら仲直りなんてできっこないよ!」
「……」
美緒の言う通り、俺は少々卑屈になりすぎていたのかもしれない。鈴乃に嫌われたかもしれない、今までのような関係には戻れないかもしれない。それでも、良き兄になろうと、鈴乃を宝物のように大切にすると決めたじゃないか。
俺は前世とは違う。ここでくよくよして後悔するより、鈴乃に謝罪の言葉を言ってから後悔する方が良いに決まっている。俺が今世で大切にしてきたことを思い出せ、こんな所でいじけている場合ではないだろう。
「そう……だな。うん、ありがとう美緒、颯太。おかげで元気出たわ」
「どういたしまして、早く仲直りするんだよ?」
「ほんと、晴翔って自分のことになると急に鈍くなるよなぁ」
「分かる、この鈍感さを長年見てきた私の身にもなって欲しいよ」
「わ、悪かったって……」
気持ちが少し軽くなったかと思えば友人たちから嫌味を吐かれ、何とも言えない気持ちになる。傷心していた奴にその仕打ちはちょっとひどいと思いません?
「はぁ……はぁ……どこ行ったんだろう…!」
「ん?……あれ白川じゃないか?」
「ほんとだ!おーい!椿ちゃーん!」
焦りの感情を滲ませながら一人で彷徨っている白川を見つける。美緒の声に気が付いたのか白川は、かなりの速度でこちらへと走ってくる。
「やっほ、白川。鈴とは一緒じゃないのか?」
「それについてなんですけど──────」
「鈴ちゃんとはぐれちゃった!?」
「そうなんです、いつの間にかはぐれちゃって……」
自分のせいではぐれてしまったとでも思っているのかとても落ち込んだ様子の白川。
「別にそんな落ち込む必要ないって、こんなに人が多いんだからしょうがないよ」
「そうだよ白川さん、それに今から手分けして探せばすぐ見つかるって」
そんな彼女をフォローしながら、どのようにして鈴乃と合流するかを考える。
「椿ちゃん、鈴ちゃんに連絡してみた?」
「してみたんですけど、全然繋がらなくて……」
「人が多いから電波が悪いのかもしれないな。そうだな……とりあえず手分けして探そう」
「分かった、でも連絡手段とかはどうする?連絡も取りづらいっぽいし……」
「とりあえず一通り探したらここ集合ってことにしよう。そうすれば連絡取れなくても合流できるし」
「おっけー!」
場所をとりあえず決めておけば最終的には最終的には合流できるはずだ。これで鈴が見つかっても全員で集まれないなんて事態にはならないはずだ。
「それじゃあ探しに行くか」
喧噪の中人をかき分けて進んでいく。時には流れに乗り、時には逆らい屋台がある場所はある程度回ってみたが鈴乃の姿は見つからない。どこかですれ違っているだけなら美緒や颯太、白川が今頃見つけているだろうが──────
「もしかしたら……行ってみるか」
見つかる気配のない鈴乃だが、そんな彼女の居場所に一つだけ心当たりがある。根拠はないが、そこに鈴乃がいる気がして仕方がない。俺はそんな直観に従い、華やかな灯りが照らす場所を後にした。
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