第58話 夏のアイスって美味しいよね

「あっお兄ちゃん、アイスあるけど食べる?」


「食べようかな」


「分かった、すぐ持ってくるね」


「ありがと」


 鈴乃はすっと立ち上がりキッチンの方へと歩いて行く。涼しい部屋でアイスか……最高すぎるな。


「はい、バニラとチョコどっちがいい?」 


「鈴が先選んでいいよ」


「んーじゃあバニラで」


「それじゃあ食べよっか」


「うん!」


 俺は鈴乃が持ってきてくれたアイスをスプーンで掬い、口へと放り込む。


 うんまぁ……幸せすぎる……。


 口の中にひんやりと広がるチョコレートの濃厚な甘さに俺は舌鼓を打つ。冬に食べるアイスも美味しいけどやっぱ夏に食べると5割増くらいで美味い。


「お兄ちゃんこっちも食べる?」


「いいの?ならありがたく貰おうかな」


「はい、あーん」


「あむ……うん、すごく美味いよ。じゃあお返し、はいあーん」


「あむっ……んふふ、美味しい〜」


「そりゃ良かった」


 美味しそうにアイスを食べる鈴乃の顔を見て自然と笑顔が溢れる。こうして2人で過ごすのも割と久しぶりだなぁ(当社比)。


「あっ、そうだ。美緒が今年の夏祭りはどうするのか聞いてたよ」


「それなんだけどね、今年は椿と一緒に行くことになったの」


「分かった、美緒には俺から伝えとくよ」


「ありがとお兄ちゃん」


 俺の予想通り鈴乃は白川と一緒にお祭りに行くらしい。いやぁ、鈴乃との白川がこんなに仲良くなって俺はとても嬉しいよ。白川には是非これからも鈴乃と仲良くしてもらいたいですね。


「んふふ〜♪」


「機嫌良さそうだな、何かいい事あった?」


 鈴乃はニコニコと嬉しそうに笑いながら俺に寄りかかってくる。学校で何かいい事があったか、それとも夏休みが来るからなのかとても上機嫌だ。


「んふふ〜だって、これからお兄ちゃんと一緒にいる時間が増えるんだもん」


「俺はあんまり外出ないから友達と外で遊びに行ったほうがいいと思うけどな」 


「私だって暑いの嫌いだからそんなに外出しないよ。椿と遊びに行くくらいだし」


「そっか。あぁでも夏休み序盤は俺学校に行かないといけないんだよな」


「えっ……な、なんで!?」


 のほほんとしていた鈴乃の表情が一変する。「せっかく一緒に居られると思っていたのにどうして……!?」と思っているのが伝わってくる。


「友達に巻き込まれて補講を受けないと行けなくなったんだよ。まぁ言うて1週間あるかないかくらいだから」


「いっ、1週間もあるの……?」


「らしい。まぁ赤点取った人用だからちょっと長めに用意されてるんじゃないかな」


「むぅ……わ、私もその補講受ける!」


 俺の言葉を聞き小さく唸っていた鈴乃が駄々を捏ねた子供のように声を荒げる。補講ですよ?そんな自ら受けに行くようなものではないからね?


「鈴は賢いから理解できちゃうかもしれないけど流石に無理だと思うよ」


「じゃあ私も学校で自習してる!」


「暑いしエアコンが付いてるか分からないから家かカフェとかで勉強したほうがいいんじゃないかな?」


「むむむむむ……」


 いやまぁお兄ちゃんとしてはすごく嬉しいし一緒に居てあげたいとは思うんだけどね?流石にそこまでする必要はないと思うんですよ。


「ほら、代わりにどっか遊びに行こうよ。せっかくの夏休みだから鈴の行きたいとこ一緒に行こうよ」


「行く!絶対行く!!」


 餌付け作戦、何か鈴乃に納得してもらいたいことがある時に使う常套手段だ。暑いのは嫌だが、せっかくの長期休暇を家に引き篭もるのはちょっとだけ勿体無い。なら鈴乃とどこかへ遊びに行く方が機嫌も取れるし休暇を満喫できるしで一石二鳥なのだ。


「また後でどうするかゆっくり話そうか」


「うん!えへへ〜どこ行こっかなぁ〜」


 すっかり機嫌が良くなった鈴乃の頭を軽く撫で、のんびりとした時間を過ごすのであった。

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