第128話 信用が……

「お兄ちゃんかっこよすぎる……あ、次はちょっとお辞儀するみたいな感じで……そうそう!めっちゃいい~!」


 カシャカシャカシャカシャカシャ


 数々の接客を乗り越え、特にトラブルもなく仕事を終えた俺は、現在鈴乃の撮影会に付き合っていた。次の人への引継ぎもあるためそんなに時間は取れないと伝えたからか、鈴乃は俺を急かしながら様々なポーズを取るよう指示を出し、写真撮影を進める。もちろん全て連写で。


「じゃ、じゃあ次は……跪いて私の手の甲にキス……とか……出来ますか?」


「……これでよろしいでしょうかお嬢様」


 俺は鈴乃の前に跪き、差し伸べられた彼女の手の甲に唇を当てる。


「んひっ!!??」


 すると次の瞬間、鈴乃はよく分からない声を上げながらまるで電流が走ったように身を震わせる。……あの、写真撮影は……。


 写真を撮ることを忘れ、とても嬉しそうにする鈴乃。口を手で覆ってはいるものの笑顔を浮かべているのが見て取れる。ま、まぁ満足してもらえたなら何よりだよ……。






 着替え終わっても興奮冷めやらないといった様子で撮った写真を確認する鈴乃、喜んでくれて何よりだなぁと眺めていると横から制服を軽く引っ張られる。


「先輩」


「どうした白川?」


 服を引っ張ってきたのは白川だった。少し納得のいかない、そんな表情を浮かべながらこちらを見上げている。……俺なんかしたっけ?


「この後鈴ちゃんと一緒に文化祭回るんですよね?」


「その予定だな」


 白川が鈴乃には聞こえない小さな声で俺に質問を投げかけてくる。


 ……あ、もしかして白川も一緒に回りたいとかかな?一緒に回るのは全然良いけど……むしろ俺が邪魔になってしまうのではないか?もしそうだったら俺は大人しく一人で回ることにしようそうしよう。そうすれば鈴乃は白川と楽しい時間を過ごせるし、青春の1ページに良い思い出を刻むことが出来る、はい俺天才。


「良いですか先輩、鈴ちゃんの機嫌を損ねるようなことは絶対にしないでくださいね!良いですか!」


「……はい?」


 全く予想していなかった言葉に俺は首を大きく傾げることになる。一緒に回りたいとかじゃないのか……?


「だーかーら!鈴ちゃんが不機嫌になるような真似、具体的には他の女の子とイチャイチャするなんてこと絶対にしないでくださいねって言ってるんです!」


「った!つねらなくてもよくない!?」


 先ほど引っ張ってきた部分をぎゅっとつねる白川。突然の武力行使に俺は困惑の声を上げる。暴力、よくない。


「こうでもしないと先輩は他の女子に現を抜かしそうですからね、先手を打ってるんですよ」


「鈴と一緒に居てそんなことするわけないだろ」


 全く、白川は俺を誰だと思ってるんだ。何年間も鈴乃の圧に耐え続けた男だぞ?そんな自ら首を絞めるような行動なんてする訳が──────


「……じゃあ午前中のあれは何だったんですかね?」


「注意喚起本当にありがとうございますまじで気を付けます」


 呆れたような視線と共に送られた言葉に俺はすぐさま頭を下げる。そういえば俺大変なことをしでかしてましたわ。いやでも何回も言うんですけどあれはしょうがなかったと言いますか……不可抗力と言いますか……あ、やっぱり何でもないっす……。


「ほんっとうに気を付けてくださいね!今日は鈴ちゃんの事貸してあげますけど明日不機嫌な状態で帰ってきたら許しませんからね!」


 いつから鈴乃は白川の物になったんだよ……でもまぁよく分からない馬の骨の物になるより白川の物になった方が良いか。


「分かったよ、鈴の機嫌を損ねないように気を付ける」


「……分かれば良いです、分かれば」


 小さくため息を吐いた白川は俺から距離を取る。うーん、全く信用されている気がしない。


「お待たせお兄ちゃん」


「ううん、全然待ってないよ」

 

「それじゃあ私はこれで失礼しますね先輩、また後でね鈴ちゃん」


「うん!また後でね!」


 椿は鈴乃へと手を振り、この場を離れていった。


「それじゃあ行こっかお兄ちゃん!」


「だな」



短くてすまぬ……(´・ω・`)

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