第101話 混ぜていきます

「ということで今日はマフィンとクッキーを焼いていきたいと思います!」


「おー」


 元気に司会進行をする鈴乃に俺は大きな拍手をする。今日は鈴乃と文化祭に出す物の試作品づくりをする日だ。俺の目の前にはいかにもスイーツ作りに必要そうな器具や材料が並んでいる。


「早速初めて行きたいと思いますが何か質問はありますかお兄ちゃん!」


 質問……と言われても何を聞けば良いかすら分からないため、特にこれといった質問が浮かんでこない。作り方の説明なんかはその都度してくれるっぽいし別に聞くことはないか……あ、そうだ。


「俺エプロンしてないけど大丈夫?」


「うーん……まぁ多分大丈夫!」


「お、おう」


 鈴乃は可愛いエプロン姿でキッチンに立っているのだが、俺はそういう類のものは何もなく普段着で立っている。自分も一応付けた方が良いのかなと思ったが、鈴乃はそこまで気にしていないらしい。


「じゃあまずはクッキーから作っていきます。じゃあお兄ちゃんこれをふるいにかけながらボウルに入れてちょうだい」


「了解」


 鈴乃に指示されたとおりに俺は手を動かす。お菓子を作るなんて小学校の家庭科以来だから内心わくわくしている。トントントンという規則的な音を立てながら粉類をふるいにかけ続けていくとあっという間に作業が終わる。


「終わったぞ」


「ありがとお兄ちゃん、それ貸してちょうだい」


 粉類の入ったボウルを渡すと、鈴乃が手慣れた手つきで次から次へと材料を測り、入れていく。スイーツ作りは分量が命と聞いたことがあるが、あれは事実らしい。分量を間違えないよう真剣に作業をする鈴乃を見て俺は「すげぇ(小並感)」と心の中で唱えながら彼女の手さばきをぼーっと眺める。


「よし!じゃあこれをホイッパーで混ぜてちょうだいお兄ちゃん」


「よっしゃ、混ぜるのだけは得意だからな」


 材料の入ったボウルにホイッパーを突っ込み、ぐるぐると混ぜ始める。が、自分の想像していた状況とは違う展開になり、俺は作業を始めて早々鈴乃に声を掛けることになる。


「なぁ鈴、こうなっちゃったんだけどどうすればいい?」


 ホイッパーがまだまとまっていない生地を全てからめとってしまい、混ぜるに混ぜれない状況が生まれてしまったのだ。この隙間なんなんだよ、混ぜるためにいるのこれ!?


「ふふふ、ほら貸してお兄ちゃん」


 鈴乃は笑いながら俺からボウルを受け取ると慣れた手つきで材料を混ぜ始める。すると見る見るうちに材料が混ざっていき、あんなにまとまりがなかった生地がどんどんなめらかになっていく。


「おぉすげぇ!」


「ふふん、伊達に料理してないからね。よし、それじゃあ後はお兄ちゃんにお願いしようかな」


「任された」


 ここまでくればもう余裕ですよ。さっきはよくも変にまとまってくれたな、お礼にこれでもかってくらいにかき回してやるよ。


「……鈴、あんまりくっつくと危ないと思うぞ?」


 鈴乃は俺の体にぴとりとくっつき、ボウルの中身を覗いている。


「大丈夫!私のことはいないものだと思って良いから!」


「えぇ……」


 混ぜた時に腕が鈴乃の顔にぶつかるかもしれないから言っているんですよ……。それに離れてくれた方が混ぜやすいから出来れば離れて欲しいんだけどなぁ……。


 そんな思いも虚しく俺は鈴乃にくっつかれたまま作業をこなすことになる。鈴乃にぶつからないように、出来るだけ振動を与えないように小さな動きでクッキー記事を混ぜ合わせる。


「……うん、もういいかな。ありがとお兄ちゃん」


「ふぃ……意外に疲れるな」


 鈴乃からのOKが出るまで生地を混ぜ続けたからか、俺の右腕が悲鳴を上げている。パティシエの人達すごいな……これをほぼ毎日やってるのか……。


 その後は鈴乃が仕上げと言わんばかりにヘラを使いながら軽く混ぜていく。やはり俺の手さばきとは雲泥の差がある……こんなこと言うのもあれなんだけどさ、これ俺いる?


「よし!ということでこの生地は一旦寝かせます」


「おっけ、ちなみにどのくらい?」


「ん~1時間くらいかな」


「いっ……!?」


 自分の想像していた3倍長くて思わず声が出てしまう。まじ?そんなに寝かせるもんなの?この生地赤ちゃんすぎない?


「大丈夫、その間にマフィンを作ってくから」


「なるほどな……あれ、マフィンの方は生地を寝かせたりしないのか?」 


「こっちはホットケーキミックスで作るからね」


「ほへー」


 ホットケーキミックスってホットケーキ以外にも使い道あったんだなぁ……。

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