第102話 完成!
「……うん、良い感じ」
「おお……!」
マフィンが焼き上がり、先ほどまでどろりとした液体だったものが風船のように膨らみ、お店に並んでいてもおかしくないチョコチップマフィンが完成する。香ばしい匂いと、程よい焼き目が食欲を刺激する。
「じゃあ一旦これは置いといて」
「え、食べないの?」
「クッキーを焼いてる時に、一緒に食べよ?」
「……そうだな」
焼きたての物があるのに食べれないとか……生殺し状態とはこのことを言うのか……。
「よし、じゃあクッキー作り再会です!今回取り出すのは……じゃじゃーん!」
セルフBGMと共に高々と掲げられたのは色々な種類の型抜き。丸や四角といったシンプルなのはもちろんハートや星、そして人型まで様々な種類があった。
「それじゃあ早く型抜きしよっか!私も早くマフィン食べたいし」
「だな」
出来たてを食べたいと思っていたのは俺だけじゃなかったらしい。鈴乃はてきぱきとした手つきで作業を進め、様々な形のクッキーを量産していく。
「後はこれで焼き上がりを待つだけ。じゃあマフィン食べよっか、お兄ちゃん」
「待ってました」
それから俺と鈴乃は素早い動きでマフィンを食べる準備を整える。
「それじゃあいただきます。あむっ……うんうん」
「いただきます。……うん、美味い!」
チョコチップのほろりとした甘さと生地の素朴な味わいが癖になる。そんなに甘くないため、これなら何個でも行けそうだ。
「これなら売り物にしても問題ないかな?」
「ああ、絶対売れるよこれ。というか買いに行くわ」
「ふふ、ありがとお兄ちゃん」
しばらくお喋りをしながらマフィンを食べ進めているとオーブントースターから焼きあがったという音が鳴り響く。
「お、焼きあがったみたいだぞ」
「だね……どれどれ」
キッチンへ向かった鈴乃の後ろについていき、クッキーの状態を確認する。
「おお、焼けてる!」
先ほどまでの物とは表面の質感が明らかに違うのが分かる。チョコレートのように滑らかだった表面がざらざらとし、全体的にほんの少し膨らんでいるのが見て取れる。
「……うん、良い感じ」
サクサクと音を立てながらクッキーを摘まむ鈴乃。しっかりと焼けているかの確認作業なのは分かるが、俺も早く食べたいなという気持ちが強くなる。
「ふふ、はいお兄ちゃんあーん」
顔に出てしまっていたのか鈴乃は暖かい視線を向けながら口元にクッキーを近づけてくる。子供っぽい態度を取ってしまったことに恥ずかしさを感じながら俺はクッキーにかじりつく。
「うん……美味い!」
「良かった。残りはお母さん達の分取り分けた後にゆっくり食べよ?」
「だな、父さんも葵さんもきっと喜ぶよ」
出かけている二人用にクッキーを取り分けた俺と鈴乃はテーブルに戻り、のんびりとクッキーを食べ始める。温かい紅茶に手作りのクッキー……なんて優雅なティータイムなんだろうか。
「お兄ちゃん食べさせて~」
「ん?ああ、はいあーん」
「あーむ……んふふ、美味しい~」
そういえばこうしてのんびりするの久しぶりな気がするな……。
夏休み後半は色々あったし、2学期が始まってからは文化祭関連で一緒に居られる時間は少なくなっていた。しかもこれから文化祭が終わるまではお互いに部活やクラスの出し物の準備などで一緒に居られる時間は減るだろう。
「んっ……えへへ~いきなりどうしたのお兄ちゃん」
「鈴の頭を撫でたい気分だった」
俺はおもむろに鈴乃の頭を撫でる。鈴乃はとても嬉しそうにほおを緩ませ、俺の手に頭を擦り付ける。
「私も撫でられたい気分だった!」
「お、じゃあもうちょっと撫でさせてもらうかな」
「お兄ちゃんならいつまででもいいよ?」
それから俺は鈴乃と2人きりでゆったりとした時間を過ごすのであった。
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