第106話 接客練習
「着替え終わったぞ」
扉が開き、お兄ちゃんの声が聞こえる。待っている時から既に私の心臓は高鳴り、溢れ出てくる興奮を抑えるので精一杯だった。だがもう抑えていた興奮を隠すことはしなくても良い、思う存分お兄ちゃんのかっこいいところを脳内メモリと写真に収めるのだ。
スマホと心の準備はいいか?私は出来ている!!
私は美緒先輩の後に続いてお兄ちゃんの待つ理科室へと足を踏み入れる。
「おお~良いじゃん晴翔、割と似合ってるよ?」
「そんなことはないと思うけどな」
「……」
いやそんなことあります!!というかめちゃくちゃかっこいいです!!!
かちりとした燕尾服に身を包んだお兄ちゃんは、いつもの優しい雰囲気ではなくかっこよさと誠実さが織り交ざった空気を醸し出している。髪を下ろした状態の今でもかっこいいが、髪を上げたら今の5倍はかっこよくなるだろう。
「似合ってるって、ね鈴ちゃん?」
「すごく似合ってる!!かっこいいよお兄ちゃん!!」
「ありがと鈴」
「でもそうだなぁ……今何か整髪料持ってない?髪あげた方が良いと思うの」
「今は持ってないな」
「じゃあ当日はちゃんと髪セットしてきて、そっちの方が絶対良いから!」
流石美緒先輩、よく分かってる。
「じゃあ接客練習に入ろっか……の前に、鈴ちゃん。後で写真撮影の時間作るから今は一旦落ち着こうねー」
カシャカシャカシャというシャッター音のことなど気にせず、私はカメラアプリの撮影ボタンを長押ししていた。
「す、すみません。つい……」
「いいよいいよ、後で晴翔のこと一杯撮ってあげて?」
「それはもう任せてください!」
「そんなに撮らなくていいと思うんだけどなぁ……」
「駄目だよお兄ちゃん!私が満足するまで付き合ってもらうからね!!」
「あぁ……うん、お手柔らかに」
「じゃあまずは入ってきたところからやろっか」
「あい」
お兄ちゃん接客あんまり上手じゃないって言ってたけど実際どうなんだろうなぁ。お兄ちゃんなら問題なくこなせそうな感じするけど……。
少しの緊張感と共に接客練習が始まる。私は美緒先輩に指示された通り廊下から理科室へと入る。さて、お兄ちゃんはどんな感じなのかなぁ?
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うぇ!?あ、はいただいま帰りました……」
丁寧な動きで頭を下げ、私に向かってふわりと微笑みかけるお兄ちゃんを見て私はつい変な受け答えをしてしまう。え?お兄ちゃん接客得意じゃないって言ってたのは何だったの?普通に即戦力どころかエースレベルなんですけど?
普段の優しさと柔らかさは残しつつ、そこに動きや口調の丁寧さが加わって本当にお嬢様になったかのような感覚を覚える。初めての体験に頭と体が混乱しているのをひしひしと感じる。落ち着くのよ鈴、これはあくまでもお手伝い、お手伝いのために私は来ていることを忘れないで。
「席までご案内いたします」
「あっ、はい…お願いします……」
やばい、やばいやばいやばい。何この不思議な感じ!?いつものお兄ちゃんと違ってめちゃくちゃ緊張しちゃうんだけど!?
「あっ……ありがとうおに……じゃなくて執事さん」
座るときもしっかりと椅子を引いてくれるとか結構本格的な感じなんだぁ……。
「ふぅ……どうだ美緒?結構自信あるんだけど」
「うん……なんとなく予想はしてたけどすごく良いよ。この調子で最後までやっちゃおっか」
最後まで……大丈夫、ちょっとずつだけど執事のお兄ちゃんにも慣れてきたし……この調子なら最後まで耐えきれる……はず!
美緒「鈴ちゃんが晴翔のことお兄ちゃんって呼んでるの久しぶりに聞いたな~」
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