第105話 スペシャルゲスト
「んー?放課後接客練習のためにここを使わせてほしい?」
「はい、人が来ないかつ静かな場所なんでここを使わせてもらいたいなと」
モグモグとお弁当を食べ進める理子さんに俺は放課後ここを使って良いかを尋ねる。他の教室でもやろうと思えばできるのだが、普段はガラガラな空き教室でも他のクラスが練習や道具の制作に使っているという場合がある。
クラス単位で教室を使うのと、個人の練習のために教室を使うのでは明らかに前者の方が優先度が高い。使えると思っていたけど使えませんでしたと言う状況が一番めんどくさい。
その点ここは人が来ないと自信を持って言える。それに静かで広い場所と、練習にはうってつけすぎるプロポーションだ、利用しない手はないだろう。
「……別に私はいいんだけど、普通そういうのは先生に聞くものなんじゃないかな?」
ごくりと咀嚼していたものを飲み込み、正論を投げかけてくる理子さんに俺はにこりと笑顔を浮かべる。
「だってここほとんど人来ないじゃないですか。だったら別に許可を取る必要ないかなぁと」
「はは、まぁ確かに人は来ないね。私は全然オッケーだよ、晴翔君の勇姿を見ることができるからね」
……名案だと思ってたけどもしかしてここで練習しない方が良いんじゃないか?
「あ、今更場所を変えるなんて無しだよ?」
「……変えませんよ」
人の心を読んだかのようにくぎを刺してくる理子さんに俺は頬をひくつかせる。適当な理由を付けて「さっきの話やっぱりなしで!」と言おうと思ってたのに……まぁいいか。許可は取れたのだからありがたくここを使わせてもらおう。
「ということで!今回はスペシャルゲストの鈴ちゃんに来てもらいました!」
「兄さんが困ってると聞いて飛んできました」
放課後になり学校のあちこちで文化祭の準備が進められていく中、俺はその賑やかさとはかけ離れた場所に足を運んでいた。念のため他に人がいないかを確認するべく、美緒をおいて先に理科室へ来ていたのだが、まさか鈴乃が俺の接客練習の相手だとは思ってもいなかった。
「最終手段って鈴のことだったか」
「そう!鈴ちゃんをお客さん役として練習すれば晴翔はすぐコツを掴めると思ったのです。いやぁ~私ってもしかしたら天才かもしれないなぁ~」
「まぁ確かに鈴相手だったらいつもよりやりやすそうだな」
「でしょ!?それになんと今回は……じゃじゃーん!」
セルフSEと共に美緒が取り出したのはしわ一つない燕尾服、おそらく文化祭当日で着るものだろう。
「美緒、流石に俺個人の練習のために衣装持ってくるのはまずくないか?」
「大丈夫だって!もう既に許可は得てるし、1日独占しちゃっても問題ないって!それにせっかく練習するなら本番みたいにやった方が良いと思わない?」
「それはまぁ……」
確かにやるなら徹底的にやった方が良い気はする。こうして本番の服装で練習できることは少ないだろうし、それに鈴乃も鈴乃で忙しい。……なら今日一日で接客の心得的な何かをマスター出来る方が良さそうだな、出来るかは知らんけど。
「それに鈴ちゃんも晴翔の執事服姿みたいでしょ?」
「見たいです!」
美緒の言葉に即答する鈴乃、優等生モードではなく素の状態の表情でこちらを見上げてくる。やめて鈴、そんなに目をキラキラさせないで。俺が執事服着ても絶対に似合ってないから。
「そういうわけだから早速着替えて!私達外で待ってるからさ」
「りょーかい」
「それじゃ着替えたら教えてね~」
ドンという音と共に扉が閉められる。
「……ねぇねぇ晴翔君、あの黒髪のめちゃくちゃ可愛い子が妹さん?」
「そうですよ、あの子が妹の鈴乃です」
「ほへ~ちょっと失礼かもだけどあんまり晴翔君と似てないね」
「俺と鈴は血が繋がってないんですよ。義理の兄妹ってやつです」
「はぁ……なるほどなるほど。お姉さん天才だからなんとなく分かっちゃったよ」
ふよふよと漂いながら呟く理子さん、一体何が分かったのかと気になったがあまり着替えるのが遅くなると待っている二人に怪しまれてしまうため、俺は目線を逸らさず着替えを進める。
「理子さん、ちょっと席外してもらえます?見られながらは恥ずかしいので」
「ん?ああ、私のことは気にせず着替えてよ。なるべく見ないようにするからさ」
「いや出てってもらえると嬉しいんですけど……」
「えぇ~?晴翔君は幽霊使いが荒いなぁ~」
ちょっと壁すり抜けるだけでしょ。それくらいでめんどくさがらないでくれよ。
「しょうがない、ここは初心な晴翔君のために席を外すとしよう。恥ずかしがりは治した方が将来色々とお得だぞ~?」
「分かりましたからはよ出てってください」
「はいはーい」
余計な一言が多すぎるなこの幽霊は……まぁいいや、早く着替えよ。
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