第77話 回り込まれてしまった!

「よし、あと2つだな。サクッと終わらせて皆のとこに戻ろう」


「え、ええ……そうね」


 音楽室の調査を終えた俺と青葉は次の場所へと歩き始める。割といいペースで進んでいる、これならすぐに戻れそうだ。なるべく2人でいる時間は少なくしたいからなぁ……。


「ま、待って晴翔君!」


「っと……ごめん、ちょっと歩くの早かったな」


 早く終わらせたいという気持ちが強かったせいで、いつの間にか青葉との距離がだいぶ離れていた。2人きりでいるのはよくないが、青葉を無視して自分のペースで進むというのは尚更よろしくない。少し時間はかかるがここは青葉の速度に合わせよう。


「ううん、こっちこそ歩くの遅くてごめんなさい」


「いや、今のは完全に俺が悪いから気にしないで」


 それから俺は青葉と同じ速度で校内を歩いていく。歩いていくのだが……


「えーっと……青葉大丈夫そうか?」


「えぇ……怖いには怖いけど問題ないわ」


「……そっか」


 何故俺がこんな質問をしたのか、それは青葉が俺の服の裾をちょこんと摘んでいるからである。無意識のうちに摘んでいるらしく本人はそのことに全く気がついていない。それになんだかいつもより距離が近いような……き、気のせいだよな!


 一瞬鈴乃の「女の子は意外と強か」発言を思い出し顔が引き攣るが、青葉は真面目な女の子だからそんなことをしてくるはずがないという結論を出す。


 それに俺なんかと仲良くなるより他の運動部の陽キャとか勉強できる良い感じの男を狙う方が合理的だしね!言ってて悲しくなるけど俺がモテる要素ってそんなにないんだよね。


 優しいとかよく言われるけどそれ異性として見られてないってことを遠回しに言ってるようなものだもんね……あは、あははは……。


「良くあるやつだけど今回はトイレの花子さんだな……失礼しまーす」


 女子トイレに入るというのは多少気が引けるが、人もいなければ調査のためなので致し方ない。


「か、かなり雰囲気あるわね……」


「確かに、それと鏡があるとこって結構怖いよな」

 

 先ほどよりも体を小さくしている青葉、裾を掴む力も強くなっているのは気のせいではないだろう。


「えーと……確か一番奥のトイレだったか?」


 一番奥のトイレを軽くノックしてみるも全く反応が無い。数秒待った後にゆっくりとドアを開けてみたがやはり何もなく、そこには洋式のトイレが置かれてあるだけだった。


「うん、何もなかったな」


「そ、そうね……」


「後は理科室の動く人体模型か……これもさくっと終わらせちゃうか」


「……ま、待って晴翔君!」


「ん?どうした?」


「そ、その……」


 いきなり呼び止めたかと思えば、言いづらそうに、そしてどこか恥ずかしそうにしている青葉を見て俺は首を傾げる。お手洗いでもしたいのかな?それなら電気を付ければ怖くないと思うけど……。


「こ、こんなことお願いするのもあれなんだけど……て、手を握って欲しいの!」


 っすー……手を……ですか……。


 再び鈴乃の「怖いって言い訳をしてくっついてきたり手を握ろうとしたりするんだよ!」という言葉が頭をよぎる。


 いや、分かってるよ?青葉は怖くて、その怖さを紛らわせるために手を握って欲しいって言っているのは重々理解しているんだけどね?鈴乃にそう言われた手前、意識しちゃうと言いますか、このタイミングで手を握ってとお願いしてくるのはちょっとドキドキしてくると言いますか、おじさんも意識せざるを得ないんですよ。


「だ、大丈夫だって。それにあと一つだし、かる~く見て終わるだけだからさ」


「……私も怖いの苦手だって言ったでしょ?」


「それはまぁ……でも今まで何もなかったんだし大丈夫だって」


 晴翔は逃げ出した!


「晴翔君は目の前の女の子が怖がってるのにそれを放置する酷い男の子なのね」


「い、いやぁ……」


 しかし、回り込まれてしまった!


 青葉さん?そんなことを言われると断るにも断れないんですけど?断ったら完全に悪者になっちゃうんですけど?


「晴翔君は優しいと思ってたけど本当は酷い人だったのね……」


 畳みかけるように、そして本当に傷ついてしまったかのように顔を伏せる青葉を見て俺はため息を漏らす。鈴乃の言っていることは間違いじゃなかったのかもしれないなぁ。


「分かったよ。ほら、早く行こうぜ」


「うん、そうしましょうか」


 青葉の少しひんやりとした手を握り、目的地である理科室へと向かう。誰にも見られていないのが唯一の救いだが出来るだけ早くこの状況から抜け出したい。……先を急がないと。





おまけ


鈴乃「……今、嫌な予感がした。今お兄ちゃんが大変なことになってる気がする……!!」


 どこからか何かを感じ取った鈴乃は人知れず禍々しいオーラを放っていたのであった。

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