第119話 占い

「占い、占いはいかがですか~?」


 そんなビールはいかがですかみたいなノリで占い勧めてくることあるんだなぁ……。


 俺と茜先輩は占いをやっているクラスへと向かった。その教室の近くに来ると手書きで「あなたの未来占います!」という文言と、占い師っぽいイラストが描かれたフリップを持ちながら呼び込みをする女子生徒がいた。占いの押し売り……あまりにも胡散臭すぎるな。


「あ、そこのラブラブなお二人さん!良かったら占いしていきませんか!?お二人の相性なんかも占えますよ!?」


「ラッ……!?」


「あぁ……俺達付き合ってないんですよ」


「あ、まだでしたか!それは邪魔しちゃいましたね、すみません。それとどうですか?占い、興味ありませんか?」


 彼女には俺達がカップルに見えたらしい。こっから先気まずくなったらどうしてくれるの?それと君商魂たくましいね。


 謝ったかと思えばすぐさま占いを押し付けてくる少女に俺はシンプルにすごいという感想が浮かんでくる。将来アパレルとかで働いてそうだなぁこの人(小並感)。


 ちょっと誤解を招いたみたいだけど茜先輩は大丈夫そうか……なって思ったけど大丈夫じゃなさそうだ。


 ちらりと茜先輩に視線を向けるとそこには頬を紅潮させ、体をもじもじとさせる先輩の姿があった。自分よりも幾分背が低いせいか、居た堪れない様子の茜先輩は小動物のような可愛さがあった。何だこの先輩、可愛いか?


「実はちょうど占い気になってたんで二人お願いできますか?」


「もちろんです!さぁさどうぞ中へ入ってください!!それはもうバッチバチに占いますよ!」


 「バッチバチに占うって何?」と出そうになった口をぐっと抑えて俺と茜先輩は案内されるまま教室の中へと足を踏み入れる。


 中に入ると周囲は暗闇に包まれる。外部からの光を全て遮断され、設置されてある僅かな光源のみで道案内がされている。これはどちらかというと占いよりもお化け屋敷の方が近いのではないだろうかと思ってしまうほど雰囲気がある。


「結構本格的なんすね」


「そ、そうだね……」


 雰囲気がありすぎるせいか茜先輩は制服の裾をぎゅっと掴んでくる。うん、見なかったことにしよう。ここで触れたら余計気まずくなる。


 俺は横へスライドさせていた視線を前へと戻し、案内の通りにただ進んでいく。にしても本当に凝ってるなぁ……。


「占いの館へようこそ。私の名前はタロット、しがない占い師です」


 いやタロットって名前なのに水晶玉使うのかよ!そこはタロットカード使えや!


 深くローブを被った少女が、ライトの光によって輝いている水晶玉へそれっぽ~く手をかざす。名前は何とかならなかったのかとか水晶玉からの光は眩しくないのかとか、占いよりも色々聞きたいことはあるが俺は沸々と湧き上がる衝動を抑え、用意されている椅子にゆっくりと腰掛ける。


「さて、今回はどのようなことを占いましょう。お二人の関係性的にはやはり恋愛に関してがおすすめですよ」


「いや、俺達付き合ってないんですよ」


「おやおやそういうことでしたか、これは不躾な発言でしたね。大変失礼いたしました」


 デジャブ……というか数分前におんなじこと言われたわ。俺と茜先輩が付き合う?いやいやいやいやいや。ないないないないない。

 

 別に茜先輩のことが嫌いというわけではない。ただ単純に自分では茜先輩と釣り合わないと思っている。俺みたいなパッとしない奴よりもっと別のかっこいい人を見つけた方が茜先輩は幸せになると思う。……まぁ自分に自信がないことへの言い訳でしかないんだけどね。


「ね、ねぇ晴翔君。せっかくだから恋愛に関して占ってもらわないかい?こう言う機会は滅多にないわけだし」


「まぁ……茜先輩が言うならいいですよ」


「ありがとう晴翔君」


 茜先輩の言う通りこういう機会は滅多にない。どうせ占いってそれっぽいことを言うだけだと思うし、そう身構える必要は特にないか。多少気まずくなるかもだけどもう既に気まずさは感じてるからいっか!!


「ではまずは可愛いお方から占わせていただきます。はぁ!」


 占い師の人は気迫ある声を出しながら水晶玉をこねくり回すかのような動きを見せる。しゅ、シュールだ……。


「むむむむ……見えました」


 ごくりと茜先輩の喉が鳴る。臨場感満載のこの場でそれっぽいことをされたら緊張してしまうのも無理はない。それに占われているのが自分のことなら尚更だ。


「あなたは今、大きな思いを内に秘めている。そしてそれを伝えるべきか、伝えないべきか悩んでいる。そうですね?」


「す、すごい……じゃなくてそうなのかもしれないです」


「あなたの選択は未来を大きく変化させることでしょう。それはもう今までの人生の中で1、2を争うほどに大きな変化です」


 占い師の言葉に茜先輩の表情が固くなる。割と漠然とした内容ではあるが、何も関係のない俺ですら聞き入っていた。


「決断をするというのは難しいことです。しかし何もしないという選択肢は一番良くない行動です」


「何も……しないこと……」


「その場に止まってしまう事はあなたに良くない未来を引き寄せてしまいます。なので進む、退くどちらにせよ自分の意思で未来を選ぶことをお勧めします。中途半端が1番良くない結果を呼び寄せてしまうことを忘れないように」


「……わかりました、ありがとうございます」


「あなたの未来がより良い方向へと進むことを心より願っております」

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