第126話 説得力
か、かっこいい……。
先ほどまでは海面すれすれのところを低空飛行していたはずなのに、ビシッと決めたお兄ちゃんを見た私の機嫌は凄まじい角度で上昇していた。
なんかこう……今のお兄ちゃんはすごいキラキラして見える。いや普段からお兄ちゃんはかっこいいんだけどね?今日はいつもと違ってキラキラとしたエフェクトが周りに見えてしょうがないの。
「こちらへどうぞ」
お兄ちゃんは空いている二人用の席へと私達を案内する。そしてさも当然であるかのように椅子を引き、座るのを手伝ってくれた。
「来てくれてありがとね鈴」
その際、お兄ちゃんが私の耳元でぽそりとそう呟く。突然の囁き声に私は大きく体を揺れ動く。きゅ、急にそんなことするのはずるくない!?
「あ、先輩。私は普通に座るのでお構いなく」
「かしこまりました椿お嬢様」
「ひうっ!?……な、なんかこそばゆいのでそれ辞めてもらう事って出来ますか?」
「……お嬢様への言葉遣いを改めるのは難しいかと」
椿の言葉に苦笑いを浮かべながら対応するお兄ちゃんに私も思わず苦笑が漏れてしまう。そういうコンセプトのお店なのにむずむずするからやめて欲しいというのは接客してる側からすれば驚きを超えて呆れや怒りが込み上げてくる言葉である。
……まぁ今回は私が無理やり連れてきたからしょうがないところがあるから私は何も言えないのだけど。
「そうだお兄ちゃん、写真一枚撮っても良い?」
「大変申し訳ございません、当店写真の撮影は全面禁止となっておりますので」
「そ、そうなんだ……」
お兄ちゃんの言葉に私はがくりと肩を落とす。練習の時に既に写真はたくさん撮ってはいるのだが、今日は今日でお兄ちゃんの執事姿を秘蔵フォルダに収めたかった。が、流石にお兄ちゃんを困らせるわけにはいかないし、今回は諦めるしかないかぁ……。
「鈴、俺のシフトが終わる時間にもう一回ここに来れるか?」
「へ?う、うん。たぶん大丈夫だと思うけど……」
お兄ちゃんが再び耳元で小さく私に話しかけてくる。この感じ、なんかお嬢様と執事の禁断の関係って感じがしてちょっとぞくぞくするかも……。
「実は表向きには撮影禁止だけど仲良い人とプライベートでの写真撮影はOKなんだって。だからそんな長い時間は取れないと思うけどちょっとだけなら一緒に写真撮れると思う」
「ほんと!?絶対に行くね!」
お兄ちゃんの言葉に私の機嫌がさらに上昇、既に飛行機と肩を並べるほどの高さにまで到達していた。ゆったりと空の旅をお楽しみください状態である。
「うん、待ってるな……んんっ!お嬢様方、本日はこちらの──────」
お兄ちゃんが咳払いを挟み、執事としての仕事を再開する。いくつかのメニューの中から私と椿はそれぞれクッキーと紅茶を頼むことにした。ここでお昼ご飯を食べるのもありだが、屋台を見ながらご飯を食べないかという椿の提案により、ここではお茶を楽しむことにした。
「かしこまりました。ただいまお持ちいたしますので少々お待ちください」
「……はぁ……かっこいい」
テキパキと仕事をこなすお兄ちゃんに私はため息とともに称賛の声を漏らす。本当にかっこよすぎる、家で雇いたいくらいにかっこいい。今度から時々お嬢様として扱ってもらうのも悪くないかもなぁ。
「ねぇ私!お兄ちゃんとちゃんとお話しなきゃいけないってこと忘れてないよね?」
「……今の天使ちゃんに説得力のせの字も無いよ?」
「う、うるさい!悪魔ちゃんはちょっと黙ってて!」
「お兄ちゃんLOVE」と書かれたうちわを両手に持っている天使ちゃんに悪魔ちゃんが呆れと共にツッコミを入れる。普段は天使ちゃんの方が悪魔ちゃんを正す側だというのに……今日は悪魔ちゃんの方がまともだなぁ。
「確かにお兄ちゃんとは色々話さないといけないことはあるけど今じゃなくても良いんじゃないかな?今は悪魔ちゃんの言う通りお兄ちゃんを堪能しよ?」
「で、でも!」
「ほら、私だってこう言ってるんだから天使ちゃんも変に意固地にならない方がいいよ。今は思う存分お兄ちゃんを楽しもうじゃないか」
「むむむむ……けど……」
……そ、そんなファンサうちわを両手に抱えた状態で悩まれても……本当に説得力が無いなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます