第32話 試験の後は遊びた……かった
「晴翔どうだったー?ちなみに俺はダメだったー」
「そこまで来るともう潔いなお前……まぁ今回も普通かな」
4日間に渡って行われた中間試験も無事に終わり、今日はなんとお昼前に帰ることが出来、そして明日一日さえ頑張れば土日が来る。普段はあれだけつんつんしている学校君からの珍しいご褒美に俺を含めた周りの生徒は非常に嬉しそうにしている。
「特に赤点を心配する必要が無くて羨ましい限りですわ」
「それ褒めてる?」
「んー……ぎり褒めてないかな」
「うん、俺の感性が正常なのが分かって良かったわ。……あ、そいえば颯太はお昼どうすんの?」
「俺は午後から部活なんですよ……」
「うわ、かわいそ」
ため息とともに吐き出されたその言葉はだるい、帰りたいという思いで塗りたくられていた。流石の俺も同情せざるを得ない。
「いやね?大会近いから部活あること自体には理解できるんだけどさぁ、なんというかこう……俺の言いたいこと分かるでしょ!?」
「お、おう……なんとなくわかるぞ」
高校生とは思えないほど語彙力の低い会話を繰り広げる。中間試験で頭をフル回転させた結果ついに脳みそがショートしたのかもしれない。
「てことで俺は今日弁当なんで」
「そっか……頑張れ」
「一緒に学食にで食おうぜ〜?」
「んー……ありだな。そうするかぁ」
「おっけじゃあ行こうぜ」
「そんじゃ部活がんばれ」
「おーう、またなー」
雑談を交えながらお昼ご飯を食べ終えた俺たちは再び軽く雑談をした後に解散した。
「さてと……どうしよっかなぁ」
このまま家に直行するのも悪くはないのだがせっかく平日に早く帰れるかつ勉強をしなくてもいい自由な時間が与えられたのだ。適当にどこかをぶらつくのもありかなしかでいえば大ありだなぁ……。
「よし、決めた」
今日は家に直行せず、適当にぶらつくとしよう。テスト頑張ったご褒美ってことで今日は一人放浪するとしますか。どこへ行くかはその時の気分次第、適当なカフェに入ってだらだらするもよし、一人カラオケで日頃のストレスを発散するもよし。今日はこの約2週間に渡るテストストレスを開放するのだ。……テストストレスってなんかの成分みたいだな。
「あっ兄さん」
「鈴……それに白川も」
玄関へ向かうと丁度鈴乃と鉢合わせた。てっきりテストが終わった後すぐに帰ったと思っていた俺はほんの少しだけ目を見開く。鈴乃たちもお昼ご飯を食べていたのだろうか。
「とりあえずテストお疲れ」
「ありがとうございます、兄さんもお疲れ様でした」
「ありがと」
ここが家なら自然と鈴乃の頭を撫でていたかもしれないがここは人目もあるし、何より白川がいる。普段の感じを見られるのは鈴乃的にあまりよろしくないだろう。
「白川もお疲れ」
「……ありがとうございます」
……ん?俺何かした?
白川の態度が明らかに違う。そんなに頻繁に絡んでいるわけじゃないが前回話したときと比べて一瞬で違うと理解できるほど、俺へ向ける視線、声のトーン、話し方が変わっていた。
これは……警戒?なんか敵意を向けられている気がするんだが……え?俺本当に何もしてないよな?
白川の態度が変わった原因を考えてみるも自ら白川に対して話しかけに行くことはあまり、というかほとんどない。強いて言うならば鈴乃との勉強会の時に軽く挨拶したくらいだろう。
その時にも変なことを言った覚えはないし……もし挨拶したこと自体が嫌だったと言われればシンプルに傷つくからその選択肢は排除しておこう。それを抜きに考えれば心当たりは皆無に等しい。ど、どうして……。
「兄さんはこれから帰りですか?」
「いや、適当にどこか遊びに行こうかなって思ってるよ。せっかく時間あるし」
「そうなんですね。……兄さん、もし良かったら私達もついていっていいですか?」
「「え」」
鈴乃の発言に俺と白川の声が重なる。
「この後ただ家に帰るのも悪くはないんですけどせっかくテストが終わったからどこかへ遊びに行くのも良いなって思ってたんです」
「それはまぁそうだけど……俺じゃなくて白川と遊びに行ったらどうだ?」
別に鈴乃の提案は悪いものではない。俺も同じように考えていたし何なら今から遊びに行くつもりだった。けど──────
俺は視線を鈴乃の隣にいる白川に視線を向ける。まず誘うなら俺じゃなくて白川を誘ってあげて!兄じゃなくてお友達を優先してあげて!!
鈴乃の視線が自分に向いていないのをいいことに、こちらを敵意をむき出しの目で見ている白川に乾いた笑みが自然と零れる。何故敵意を抱かれているのかは分からないが、俺と一緒に居たくないことは確かだろう。おそらく鈴乃であれば白川も一緒に行こうと言うはずだ、正直めっちゃ気まずいから一人で行きたい。
「ほ、ほら俺じゃなくて白川と行ってきなよ。そっちの方が良いよ」
「もちろん白川さんも一緒ですよ」
っすー……まぁそう来るよねぇ。流石にここで白川を放り出したりはしないよね。でもそこが問題なのよ、俺じゃなくて白川と二人で遊びに行くべきなんだよね。
「いや、白川に変な気を遣わせちゃうからさ。今日は二人で行ってきなよ」
「別にそんなこと─────」
「友達の兄と一緒に遊びに行くとか白川も全力で楽しめないと思うからさ。友達同士で今日は楽しんできな。それじゃあ白川、鈴のことよろしくね」
「は、はい!」
俺は何かを追及される前にその場を去る。あのままだと流れで一緒に行くことになる可能性があったためだ。白川を置いて追ってくるなんてことはしないだろうからここまでくればもう大丈夫だろう。
「とりあえず今日はどっか行くの中止だな。それと鈴乃の機嫌を取るための策を考えないとなぁ」
家で拗ねている鈴乃の姿が容易に想像できた俺はどうやって鈴乃の機嫌を戻すかを考えながら足を動かした。
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