第30話 お勉強会
「つっかれた~…晴翔なんかない?甘い奴」
「あるぞ、ほれ」
「まじか!せんきゅー……あぁ…糖分が疲れた脳に染み渡るぅ~」
学生の生活には常に勉強と試験が纏わりつく。俺は現在颯太と共に中間試験に向けての勉強会を行っている。
「いやぁ俺今回の数学赤点取る自信しかないんだよな~」
「そんな自信いらないから元あった場所に捨ててきなさい」
「それが出来たら苦労しねぇよ。晴翔は今回のテストどうなんだ?」
「可も不可もないかな。いつも通り60点前後に終わりそう」
「あったまいい~」
「これで頭良いとか人によっては煽りに聞こえるからやめとけよ?」
颯太は部活ガチ勢ということもあってテストの点数は基本的に高くない。赤点を取るか取らないかのギリギリを毎度彷徨っている。だがうちの学校には赤点を取ると追加の課題や補講等々のペナルティがしっかりと存在する。そのおかげというべきかテスト期間中の放課後の教室や図書室はかなりの人で溢れている。かくいう俺たちも教室に残って颯太の赤点回避勉強会を実施しているのだが。
「てか数学以外は大丈夫そうなのか?確かお前英語もかなりギリギリじゃなかったっけ?」
「おっ、よくわかってるじゃん晴翔。ちなみに英語も今回赤点取りそうでやばいよ」
「はい勉強しましょうね~」
「うがー!」
「あっ、お兄ちゃん」
「ん?どうした鈴?」
勉強会を終えて帰宅し、夜ご飯を食べ終えた頃鈴乃から声が掛かる。
「今週末に白川さんと家で勉強会をすることになったんだけどいい?」
「おお、いいじゃん」
あれから白川と鈴乃は学校では基本的に一緒に過ごすほど仲が良くなったらしい。兄としては非常に嬉しい限りです。このまま白川には鈴乃の親友目指して頑張ってもらいたい。
「父さんと葵さんから許可出てるんだったら全然いいよ……ってああ、俺いない方がいいか。時間さえ教えてくれれば外出るから」
「ううん、全然家にいて大丈夫だよ!一応確認をしただけだから」
「そっか」
てっきり勉強会の邪魔になるから出て行け的なあれだと思ってたけどそんなことは無いらしい。まぁ様子を見て自主的に外で勉強しに行くのもありか。
「お、お邪魔します」
「どうぞー」
こ、ここが鈴乃ちゃんのお家……心なしかいい匂いがする。
きょろきょろと視線を動かし周囲を窺う。まるで上京したての田舎者みたいに右から左へとどんどん視線を動かしていく。心臓の位置が高くなっているのではないかと思ってしまうほど鼓動の音がうるさく、もう夏が訪れたのではないかと疑ってしまうほど体のあちこちから汗が出てくる。
き、緊張しすぎよ私。ただ鈴乃ちゃんの家で勉強会をするだけじゃない。そんな気負う必要はないはず──────
「あら、その子が白川さん?」
「うん、そうだよお母さん」
「いつも鈴乃がお世話になってます。今日はゆっくりしていってね」
「は、はいお母様!ありがとうございます!!」
お母様って何!?そんな結婚の挨拶とかじゃないんだからもうちょっとフランクに接するべきだったぁ……や、やり直したい……!
「ふふ、そんなかしこまらなくてもいいわよ」
「す、すみません……」
は、恥ずかしい……絶対変な子だと思われた……さ、最悪だ。
恥ずかしさを紛らわすために頬を搔きながら苦笑いを浮かべる。鈴乃ちゃんの家族との初絡みは問題が起こる呪いをかけられているのかと思ってしまう。先日よりはましな部類に入るが十中八九普通ではない子だと思われただろう。それにしても鈴乃ちゃんに似て綺麗で優しそうな人だなぁ……。
「それじゃあ私の部屋に行きましょうか」
「う、うん!」
鈴乃ちゃんのお部屋……やばいやばいやばいめちゃくちゃ緊張してきた。どうしよう手汗止まんないんだけど。鈴乃ちゃんの部屋はどんな感じなんだろうなぁ……綺麗系?それとも可愛い系?それとも大穴のかっこいい系かなぁ……どれも似合いそうで困る(困らない)。
「あんまり広くはないけどどうぞ」
「し、失礼します……わぁ」
一目見て整理整頓されていることが分かる部屋は、白を基調に各所にピンクなどの可愛い色が散りばめられたとてもおしゃれな部屋になっていた。
「すごいおしゃれだね」
「ありがとうございます。飲み物を取ってきます……そんなに気を張らなくてもいいからね?」
「へ?あ、うん!」
見透かされているのか部屋を出て行く前に鈴乃ちゃんは私に優しく微笑みかける。何という天使、oh my 天使。優しくて可愛いとか……鈴乃ちゃん本当に私と同じ人間なのかな?天使の生まれ変わりだったりしない?
それはそれとして私今本当に鈴乃ちゃんの部屋にいるんだなぁ……あちこちから鈴乃ちゃんの匂いがしてすごくドキドキする。このベッドで鈴乃ちゃんが毎日寝てるのかぁ……はっ!?だ、駄目よ私。いくら鈴乃ちゃんが好きかつ誰も見ていないからと言ってそんな変態まがいなことをしちゃ。流石に一線を越えるようなことをするのは倫理的によろしくないよ私。
よこしまな思考を掻き消すように頭を振った私は視線をベッドから外し、部屋を観察する。かなりシンプルな内装だけど細部にかなりのこだわりが見える。小物一つ一つに可愛さや機能性を求めているのが伝わってくる。
「これは……っ!?か、かわいい……!!」
机の上に置かれた写真立て、これならば見ても問題ないだろうと考えた私はその写真立てを手に持ち写真を眺める。そこには家の前で取った鈴乃ちゃん一家の写真が飾られてあった。
子供の頃の鈴乃ちゃんも可愛い……天使は小さい頃から天使だったというわけか……。
「小さいときの先輩もいる………でもなんだろうこの写真何というか──────」
「お待たせしました」
「はいぃ!?」
怒られることは無いと思うが盗み見している現場を見られた私は自然と背筋が伸びる。気楽にしてといった相手が写真を勝手に見ていたら流石に気楽にし過ぎだと思うかもしれない。
「……あぁ、少し恥ずかしいですね。小さい頃の私はかなり引っ込み思案だったので、今とかなり印象が違うでしょう?」
「う、うん……」
確かにこの写真を見て今の鈴乃ちゃんとはかなり違っているなとは感じた。でもそれ以外にもこの写真には少し違和感があるし、そっちの方が先に気になった。しかし、それについて発言するのは少々気が引けたため、これ以上深くは考えないようにした。
「その…ごめんね?勝手に見ちゃって」
「全然気にしてないから大丈夫ですよ。それじゃあ少しずつ勉強始めていきましょうか」
「…うん!」
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