第70話 見ちゃいけないもの?

 あれ……お兄ちゃん一体どこに行くんだろ。


 休憩も兼ねて椿と砂遊びをしていると、お兄ちゃんがどこかへ歩いて行ってしまう。そっちの方向には何もなかったと思うけど……一体どうしたんだろ。……気になる。


 お兄ちゃんが何をしに行ったのか気になって仕方がない。だからと言って椿を置いてお兄ちゃんを追いかけるのはよろしくない。せっかく二人で遊んでいるのに彼女を一人置き去りにするなんてことは出来ない。むむむ……どうしたものか。


「はぁ~疲れたぁ……ちょっと飛ばし過ぎたかもぉ」


 美緒先輩がにははと笑いながら私たちの所へとやって来る。午前中から全力で遊んでいるのだから仕方がないと思う。……でも美緒先輩多分10分くらい休んだらまた泳ぎに行くんだろうなぁ……。


「二人は今何してるの?」


「砂遊びです。お城を作ってみようと思ったんですけど……」


「想像以上に難しいよねぇ。どれ、私も城づくりに参加しようかな!」


 そう言うと美緒先輩は隣にしゃがみ込んで砂をいじり始める。


 ……美緒先輩が来たなら椿を一人にしないし、お兄ちゃんの後を追いかけられるのでは……?


 私の脳内に衝撃が走る。最大の懸念点だった椿を一人にしてしまう問題が解決された今、少しの間なら抜け出してお兄ちゃんを追いかけることが出来るのではないだろうか?もしかしたらお兄ちゃんを見失うかもしれないし……善は急げって昔の人も言ってたもんね!


「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってきます」


「あ、うん。いってらっしゃーい!……ってあっちの方にお手洗いってあったっけ?」


 お兄ちゃんの歩いていった方向へと駆ける。まさかそんなことは無いと思うけれど、万が一お兄ちゃんが女の人にナンパされて人気のない場所に呼ばれた可能性もある。無いと信じたいが、もしそうだった場合は私がお兄ちゃんのことを守らなければいけない。


「ふっ…ふっ……お兄ちゃん?」


 ごつごつとした岩場の前で立ち尽くすお兄ちゃんを見て私は首を傾げる。あんな場所でどうして棒立ちをしているのだろう、何か変なものでも見つけたのかな?


「お兄ちゃん、こんなところで何してるの?」


 その場で立ち尽くしているお兄ちゃんに声をかける。すると物凄い勢いで振り向き、まるでお化けを見たかのような反応をする。急に声をかけたのはあんまり良くないことだけどそんなに驚くことかな……?


「お兄ちゃん、ここで何や─────んむっ!?」


「鈴、ちょっとごめんな?」


 いきなりお兄ちゃんに口を塞がれ私の体はびくりと揺れる。い、いきなりそんな……ってお兄ちゃん?


 塞がれていた口が解放されたかと思えば、体を180度回転させられる。


「お、おに……むっ……」


お兄ちゃんに一体どう言うことなのかを質問しようとするも再び口を塞がれてしまう。


「ごめん鈴……少しだけ静かにしててくれるか?」


「っ!?」


 耳元で囁かれ、私の体にゾクゾクとした感覚が走る。申し訳なさと少し焦りのような感情が含まれたお兄ちゃんの声が少し官能的に聞こえてしまい、私の頬がどんどん熱くなっていくのを感じる。お兄ちゃん、ちょっとエッ!だよエッ!!


「本当にやり始めちゃったよ……」


 い、一体何をってひょわぁ!?


 ポツリと何かを呟いた後、お兄ちゃんは私の両耳をそっと塞ぎ、来た道の方向へと私の体を押してくる。


 両耳から伝わる感触がくすぐったい。というか水着だからしょうがないことだけど肌と肌がぶつかってこう……やばい(語彙力皆無)。


 いつも触れ合ってはいるけどこんなに素肌がぶつかるなんてこと滅多にない。やばい、刺激が強すぎるよ……!大丈夫かな?変に熱くなってたりしないかな!?


「ここならもう大丈夫だろ……ごめんな鈴、いきなり強引な真似しちゃって」


「だ、大丈夫だよ」


 お兄ちゃんは謝罪と共に私から離れる。あ、危ない……刺激が強すぎてどうなることかと思った……。


 胸に手を当てて、ゆっくりと心を落ち着かせる。


「お兄ちゃんはあんなところで何してたの?」


「ちょっと散策をしてたんだけど……まぁ何と言うか見ちゃいけないものを発見しちゃってね」


「み、見ちゃいけないもの……?」


「そう、見ちゃいけないもの」


 見ちゃいけないものって一体何だろう……耳を塞ぐってことは何か音を出すものだし……おっきい虫とかかな?


「そういえば鈴はどうしてここにいるんだ?確か白川と砂遊びしてたはずだよな?」


「ああ……その、お兄ちゃんが何もない方に歩いて行ったのが見えて、ちょっと気になっちゃって……それで……」


「なるほどな、なんか変に心配させちゃったみたいでごめんな」


「ううん、私が悪いからお兄ちゃんは気にしないで」


「そっか。まぁとりあえず白川んとこ戻るか」


「うん!」

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