第2話

「祭夏・ジョット。大清光帝国の辺境にあるコロニー群の出身。普段は自作のミレス・マキナでジャンクや鉱物を採取する仕事等で生計を立てている。そして今回、式典用の物資の輸送をする仕事でこの基地に来ていた、か……」


 大清光帝国の基地にある一室。そこには数人の軍人達が集まっており、その中の一人が手元にある資料を読んでから自分達の前で椅子に座っている男に視線を向ける。


 軍人達の前で椅子に座っているのは十代後半くらいの男で、資料には今年で十八歳とある。黒目黒髪で中肉中背の、容姿も特に醜くはないが美形と言う程でもない正に平凡と言った外見をしていた。


 そんな外見も素性も辺境から来た平凡なただの田舎者でしかない男、祭夏・ジョットを見て、部屋にいる軍人達は全員困惑の表情を浮かべて同じ事を考えていた。


 つまり「本当にこんな男がゲムマを一人で撃退し、自分達を救ってくれた英雄なのか?」と。


 この基地はほんの数時間前、ゲムマに襲われたばかりであった。


 同盟国の人間を招いての式典の最中に現れたゲムマは、何やら特殊な能力を持っていたようで、原理は全くの不明だが撃退に出した基地のミレス・マキナの部隊を全て行動不能にしてみせたのだ。その光景を見て軍人達が思わず死を覚悟をした時、たった一機のミレス・マキナでゲムマと戦って撃退したのがここにいるジョットなのだが、軍人達は「あの出来事は全員が同じ夢を見ていただけでは?」と思い始めていた。


 軍人達はもう一度手元にあるジョットの資料に目を通すが、やはり辺境から来た田舎者としか言いようのない平凡な素性。ゲムマと戦った彼のミレス・マキナにいたっては酷い内容であった。


 ミレス・マキナとは、パイロットである機士の精神波を命令信号を兼ねたエネルギーに変換するジェネレーターを内蔵した頭部と、ジェネレーターが生み出すエネルギーを機体の各パーツに伝える擬似神経さえマトモであれば、寄せ集めの部品で組み上げた機体でも問題無く動かすことができる。


 この素人でも容易に機体を組み上げたり修理できる点も、ミレス・マキナが宇宙中の戦場に広まった理由であるのだが、ジョットの機体であるミレス・ジョットは中古のパーツや申し訳程度に修理したジャンク品のみで組み上げられたものであった。


 当然ながら性能は基地にあるミレス・マキナとは比べ物にならない程に低く、下手をすれば「ワクス・マキナ」と呼ばれる多くの民間人が使う作業用ロボットにも劣るかもしれない。武装は背中の右側と胸部に大昔の戦艦のビーム砲を改造したものを装備しているが、ミレス・マキナ同士の戦いが主流である現代ではまず採用されない前世紀の遺物のような武装で、資料にも「主に宇宙空間での作業中に邪魔なデブリを破壊するのに使っていた」とある。


 ミレス・マキナを操縦するのに必要な「二つの才能」は両方とも備わっているが、それ以外は見るところもない平凡な田舎者の機士。そして時代遅れの兵器を装備した、軍用機どころか民間人の作業ロボットにも劣るかもしれない粗悪品のミレス・マキナ。


 こんな組み合わせがどうして正規軍のミレス・マキナの部隊を全滅させたゲムマを撃退できたのか?


 いや、そもそも他のミレス・マキナが行動不能となったのに、何故ジョットの機体だけは行動不能にならなかったのか?


 考えれば考えるほど疑問が深まりそうだったので、軍人達は本来の用件をジョットに伝えることにした。


「祭夏・ジョット君。今回はゲムマの撃退ご苦労だったね。君のお陰で私達基地の人間だけでなく、式典に参加してくれた同盟国の招待客も助かった。これには軍人としてだけでなく、個人的にもお礼を言わせてもらうよ。ありがとう」


「いえ……。俺はただ死にたくなかっただけですから……」


 軍人の言葉にジョットは表情を変えることなくのんびりとした声で答える。そんな緊張感のないジョットの言葉に軍人は何とも言えない表情となるが、一つ咳払いをして気を取り直すと話を再開する。


「……んん! と、とにかく今回のゲムマについては世間には公表しないことが決まった。ミレス・マキナを行動不能にできるゲムマの存在など知られるわけにはいかないからね」


 たった一体で戦艦を沈められるゲムマを相手にして特に大きな被害を出さずにいられたのはミレス・マキナの存在が大きい。それなのにミレス・マキナを行動不能にする特殊能力を持ったゲムマの存在が知られたら、世間に大きな混乱が起こるだろうと考えての判断なのだろう。


「そうなんですか」


 しかしジョットは相変わらず表情を変えることなくやはりのんびりした声で返事をするだけで、軍人は彼の態度を無視して話を続けた。


「だから君もあのゲムマについては他に公言しないでもらいたい。その代わり、さっきも言ったが君は、私達この基地の人間だけでなく同盟国の招待客を助けてくれた恩人だ。報酬には出来る限りの要望を応えるつもりだ。何でも言ってくれ」


「何でも、ですか?」


 軍人の言葉にジョットはここで初めて興味を持ったような反応を見せて口を開いた。


「だったらまず家族に渡すお金が欲しいです。それと……」


 報酬として家族に渡すための金が欲しいとジョットが言うと、部屋にいる軍人達は少し感心したような顔となる。しかし……。


「あとは巨乳で美人な彼女が欲しいです」


『『……………』』


 次にジョットが口にした自分の欲望に正直すぎる要望に、軍人達は思わず呆れたようになって全員絶句するのであった。

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