第458話

「フフッ。アハハハハッ! どうしたんだい、皆? 逃げてばかりだと戦いにならないじゃないか?」


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの所有地である砂漠で、宙に浮かぶ9543番が楽しそうな笑みを浮かべる。そんな彼女の視線の先では強化型ゲムマが縦横無尽に空を飛び回ってジョット達に攻撃をしかけていた。


「攻撃の一つ一つが鋭い……! 9543番の奴、やるじゃないか?」


「と、というかあの人、楽しんでない!?」


 9543番の強化型ゲムマは、両腕の剣と二対の翼の先から長いビームの刃を作り出して高速の連続攻撃を繰り広げており、ジョットとジーナはそれを避けながら感想を口にする。


「わ、私、もうムリ……!」


「落ち着いて、ジーナちゃん。確かに動きは速いし、ビームの出力も高いけどよく見たら避けれるから」


「そうだ。あの8789番の強化型ゲムマに比べたらまだ分かりやすい」


 何とか9543番の連続攻撃を避けれているが弱音を吐くジーナに、マーシャとセレディスが声をかける。


 確かに9543番の強化型ゲムマが繰り出す六本のビームの刃による連続攻撃は厄介だが、ミレス・マキナの中にもサブアームを使い、複数の武器で連続攻撃を繰り出す機体はいる。そのことを考えれば予測が困難な8789番よりもずっと戦いやすい相手だとマーシャとセレディスは言うのだが……。


「いや、それはマーシャさんやセレディスさん達だからそう言えるんですよね? 私はお兄ちゃんや皆みたいな防御テクニックなんて持っていないんだって!」


 ジーナがマーシャとセレディスの言葉に反論をする。彼女自身の言う通り、ジーナの機士としての実力は低くはないが、かと言ってジョット達みたいに飛び抜けて優れているという訳でもなく、こうして9543番の攻撃を避けるだけで精一杯なのであった。


「ですが随分と正面からの戦いを好まれるのですね?」


「そうね。てっきり8789番のようにトンデモ能力で攻撃してくるかと思っていたのに。……『さっき』のような、ね」


 シレイアとカーリーの言葉に9543番は心外だという顔で首を横に振る。


「ワタシを8789番のような、自分の楽しみを優先するあまりルール違反をするような邪道と一緒にしないでくれないかな? ワタシは正々堂々、ルールを守って君達人類との遊び戦いを楽しんでいる正統派なんだから」


「邪道に正統派ね……」


 やはり人類との戦いをゲームとしてしか見ていない9543番の言葉にジョットが呟く。要するに人類とゲムマとの戦いをテレビゲームに例えると、8789番はゲームを楽しむためなら違法のチートデータも使うタイプで、9543番はあくまでルール……ゲームのシステムに従って遊びタイプということなのだろう。


「それにしても皆、よく避けるね? ……これはもう一度『アレ』を使うしかないかな?」


「……っ!? 皆、気をつけろ! さっきの攻撃がくるぞ!」


 9543番がそう言って彼女の強化型ゲムマが身構えると、それを見たセレディスが皆に警告を飛ばす。


 空を飛んでいた9543番の強化型ゲムマは更に高度を上げると二対の翼を大きく広げ、それにより翼から光輝く鱗粉のようなものがゲムマの周囲に広がる。そして次の瞬間、9543番の強化型ゲムマの姿が数十体に増えたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る