第459話
「……!? また9543番の分身か!」
9543番の強化型ゲムマが一瞬で数を増やしたのを見てジョットが思わず声を上げ、その場にいる全員に緊張が走る。強化型ゲムマは戦闘が始まってすぐに分身を使ってみせており、分身を使った強化型ゲムマの厄介さを知っているジョット達はこれから来る攻撃に備えて武器を構えた。
「準備はできたみたいだね? ……それじゃあ、行くよ!」
ジョット達が武器を構えたのを見届けてから9543番が命令を出すと、数十体に増えた強化型ゲムマは両腕と二対の翼の先からビームの刃を発生させてジョット達へと突撃していく。
この無数の強化型ゲムマは、周囲に散布したナノ単位の粉末状となったゲムマの身体の鉱石の一部、それに幻影を投影したものである。当然本物の強化型ゲムマは一体だけなのだが、両腕の剣と翼の先にあるビームの刃は、ゲムマから放たれるエネルギーを粉末状の鉱石を利用して屈折・収束させたものなので、本物のビームの刃と同じであった。
つまり実質、今の9543番は数十体のゲムマを操って攻撃を仕掛けており、こちらに迫り来る強化型ゲムマの群れを前にしてジョットは仲間達に指示を出す。
「……皆! 急いでここから距離を取れ! 一箇所じゃなくてバラバラになって離れるんだ!」
「え? お兄ちゃん、それってどういう……?」
「いいから早く!」
突然のジョットの指示にジーナがどういう意味か聞こうとしたが、説明の時間が惜しいのか彼は急いで数十体の強化型ゲムマから離れるように言うと、ジーナ達はそれぞれ別方向に向かって強化型ゲムマから距離を取った。
「……へぇ?」
ジーナ達はジョットの指示に従って離れて行くが、本人はその場に留まっているのを見て9543番が興味深そうな表情を浮かべる。
「ジョット君は逃げないんだ? それで他の皆はバラバラの方向に逃すなんて……もしかしてワタシの分身の『弱点』に気づいた?」
「ああ。9543番。お前のゲムマの分身……本物からあまり遠くまで出せないんだろ?」
一人残ったジョットは、四方八方から迫り来る強化型ゲムマのビームの刃を避ける、あるいは自分のビームの刃で防ぎながら9543番の質問に答える。
強化型ゲムマの分身は、粉末状の鉱石を散布した範囲内でのみでしか出現させることができず、当然ビームの刃による攻撃も粉末状の鉱石の範囲内でしか行われない。9543番はある程度この粉末状の鉱石の散布範囲を操作できるが、今のように相手が別々の方向に逃げた場合は全てを捕捉することは困難であった。
「凄いね、ジョット君。気づかれないように強化型ゲムマと分身との距離と位置は調整していたのに、たった二回で弱点を見破るだなんて」
「確かにゲムマと分身の距離はバラバラだったし、最大でどれだけ離れた場所に分身が出せるのは分からないけど、それでも分身が出せる距離に限界があるのは一目で分かったよ。……皆をバラバラの方向に逃したのは単なる勘だったけど正解だったみたいだな」
「……お兄ちゃんって、相変わらず防御に関しては人間超えているよね」
「何を今更」
「そうだぞ。むしろあの防御のセンスは私も見習いたいものだ」
「そうですわね。あれだけ防御が上手い方はそうそういませんから」
「というか私が言うのもなんだけど、あの防御センスってもう一種の超能力なんじゃない?」
相変わらず数十体のゲムマの攻撃を難なく防ぎながら9543番と会話をしているジョットを見て、ジーナ、マーシャ、セレディス、シレイア、カーリーが口々に言う。そして……。
「ふぅん……? そう言うことね」
黒翼・ヘビー・マシーナリーの研究室からジョット達と9543番の戦いを見ていたマリーは、あることに気づき一人呟くのであった。
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