第434話
トリックスター「
皇帝は間を置いてから再開されるトライアルは新たな複数の審査員の元で行い、今回のトライアルで唯一の審査員であった虹橋家の当主を審査員から外すことを決定した。これは虹橋家の当主が自分の領地の兵器メーカーが作ったミレス・アクセルカイザーを、トライアルの成績を無視して次期主力機に採用しようとしていることをシレイアから聞いて、このままではトライアルの公平性が保てなくなると判断したからである。
そして意外なことに虹橋家の当主は、この皇帝の決定を驚くほど素直に承諾して一切の反論も抵抗もせずにいた。どうやら虹橋家の当主は今回のイカサマのようなトライアルの審査には否定的であったようで、何よりも大切に思っていた一人息子のエランに頼まれて仕方なく協力していたようだった。
これで今回のトライアルは終わり、ジョット達も真道学園に帰ろうとしたのだが……。
「認めない! ボクはこんな結果、絶対に認めないぞ!」
魅火鎚に戻ろうとしたジョット達の前にエランが立ち塞がり大声で叫ぶ。
「こ、こんなの! こんなのボクが思い描いていた未来と違う! 本当だったら今頃ボクはトライアルで目覚ましい成績を出して、ミレス・アクセルカイザーは次期主力機になって、シレイア様はボクのものになっていたはずなんだ! それなのにトライアルに中止になった上に、ミレス・アクセルカイザーは再開したトライアルに参加出来ず! しかもパパまで審査員から外されるなんて! こんなのは何かの間違いだ!」
どうやら虹橋家の当主がトライアルの審査員から外されるのと同時に、虹橋家が関係しているミレス・アクセルカイザーもトライアルの審査対象から外されたらしく、その現実を受け入れられず叫ぶエランを見てセレディスが口を開く。
「……無様だな」
エランを軽蔑した目で見るセレディスの一言は正にここにいる全員が思っていることで、ジョット達はもうエランとこれ以上関わりたくなかったのだが、それでもシャルロットは何とか穏便に済まそうとエランに話しかける。
「あ、あのエランさん? もうそろそろ止めておいた方が……」
「うるさい! いいよな!? お前は祭夏・ジョットのお陰で機体の評判も良かったみたいで!」
宥めようとするシャルロットに向かってエランはまるで駄々をこねる子供のように叫ぶ。
エランの言う通り、シャルロット達のミレス・コルヴォカッチャトーレはトライアルでの動きや七体のゲムマとの戦いを評価されていて、トライアルが再開されたら採用間違い無しと言われているだけでなく、すでに正銀工房には軍や貴族から注文が殺到しているらしい。
「どこでその話を……?」
「そんなの少し調べたら分かるわよ。……いい? トライアルやゲムマの戦いは全部ジョット君だからあそこまで活躍できたんだからね? それだけは忘れないでね?」
エランがミレス・コルヴォカッチャトーレについて知っていることにシャルロットが驚いているとマリーが彼女に話しかける。しかしエランはマリーとシャルロットを無視してジョットを指差し口を開く。
「とにかく! 祭夏・ジョット! ボクと勝負しろ! 勝負に勝ったら今度こそシレイア様を……って? 何?」
エランがジョットにまたもや勝負を申し込もうとした時、どこからか複数の男達が現れてエランを取り囲み、シレイアは男達の服に描かれた家紋に気づく。
「あの家紋は虹橋家の家紋?」
「な、何だお前ら!? お前らはパパの護衛だろ? それが何でボクを取り押さえようとする!?」
エランを取り囲む男達は虹橋家に仕える当主の護衛で、彼が言葉に護衛達はエランを取り押さえながら答える。
「当主様のご命令です。エラン様、当主様の命により貴方様を拘束させてもらいます。……連れて行け」
「なっ!? パパがボクを!? そんな馬鹿な……って、オイ? どこに連れて行く気だ!?」
護衛達は叫ぶエランを無視して強引に彼を運んで行き、護衛の中の一人がその場に残ってジョット達に向けて頭を下げた。
「皆様、今回はエラン様が度重なる無礼を働き本当に申し訳ありません。当主様は現在、皇帝陛下に今回の件について報告中のためここに来れず、伝言をお伝えに参りました。当主様はエラン様を長期間謹慎した後、一から再教育をすることに決められまして、二度と皆様の前には姿を出さないようにするそうです。またそれ以外の謝罪も後ほどするとのこと。……では失礼します」
そう言うと護衛はもう一度頭を下げてからジョット達の前から去って行き、ジョットはようやく面倒ごとが終わったと胸を撫で下ろすのであった。
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