第433話

「カーリー! アレス・ランザを返してもらうぞ! 君はこの機体ミレス・コルヴォカッチャトーレを頼む!」


 通信機からマリーの声を聞いたジョットはカーリーに向けて話しかける。


 ミレス・マキナとアレス・マキナのジェネレーターには、機体と一緒に作られた専用の戦闘機に乗る機士以外の精神波をシャットアウトする機能が備わっている。


 これは当然ながら戦闘中に自分の機体を他の機士に操縦権を奪われないようにするためで、通常ならばミレス・マキナとアレス・マキナは機体の対となる戦闘機からでしか操縦できない。だがコロニー内にいるマリーとシャルロットによって、ミレス・コルヴォカッチャトーレとアレス・ランザのジェネレーターにある他者の精神波をシャットアウトする機能が一部解除され、ジョットとカーリーはお互いの機体を交換できるようになったのであった。


「オーケー! 任せて!」


 ジョットの声に返事をしたカーリーはミレス・コルヴォカッチャトーレを操縦すると七体のゲムマから離れようとし、愛機に乗り換えたジョットはカーリーがこの場から離れるための時間を稼ごうとゲムマに向かうとするのだが……。


「……何?」


「ゲムマが今度はアレス・ランザに?」


 てっきりまた他を無視してミレス・コルヴォカッチャトーレを追うのかと思っていた七体のゲムマだったのだが、七体のゲムマは今度はアレス・ランザに向かって突撃してくるのであった。


「旦那様。本当にゲムマに恨みを買うようなことをしていないのですか?」


「……本当に何かしたのかな、俺?」


 ジョットがカーリーに変わってアレス・ランザを操縦した途端、攻撃対象をミレス・コルヴォカッチャトーレからアレス・ランザに変更した七体のゲムマを見てムムが聞くと、ジョットは真剣に自分に何かゲムマに恨まれて襲われる原因があるのかと考える。


「ジョット君! 考えるのは後! 速く決めちゃって!」


「……! そうだったな。皆、ここからは俺一人で戦う! 皆はこれから機体を一切動かさないでくれ!」


『『………?』』


 カーリーに言われて気を取り直したジョットはコロニーの防衛部隊と親衛隊の機士達にそう言うが、防衛部隊と親衛隊の機士達は彼の言葉の意味が分からなかった。自分一人で戦うから援護をすると言うのならまだ分かるが、機体を一切動かすなとはどう意味なのかと疑問に思う防衛部隊と親衛隊であったが、それからすぐに彼らはジョットの言葉の意味を理解した。


「トリックスター『恐乱劇場デイモス・フォボス』発動!」


 ジョットの言葉と共にアレス・ランザの機体を中心に光が広がり、この場にいる全てのミレス・マキナとゲムマを包み込む。


 あらゆる行動の向きをデタラメにする空間を作り出す、ジョットがアレス・ランザを操縦している時のみ発現できる超常現象、恐乱劇場。恐乱劇場の空間に囚われた七体のゲムマはそれぞれその場でデタラメな動きをとっており、この後は唯一自分の思う通りに動けるジョットとアレス・ランザに撃破される未来しかなかった。


 そんなアレス・ランザとジョットの、一方的にゲムマを一体ずつ撃破していく姿を、戦場から離れた宇宙空間で一人の人物が見ていた。


 その人物はジョットがコロニーの宇宙港から宇宙に出る時に見た、全身鎧のような宇宙服を着た人物であった。その人物の周囲には宇宙船やミレス・マキナの姿はなく、宇宙服を着た人物は一人だけで宇宙空間に浮かびながら興味深そうにジョットが操るアレス・ランザを見ていた。


「やっぱり彼がそうだったんだ……興味深いね。……お礼も言いたいし、今度会って話してみようかな?」

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