第534話

「これが今回の報酬か」


 ジョット達が熊に似た獣の群れと戦いを始めてから数時間後。熊に似た獣を無事に全て倒して馬車の中で話をしているジョット達の前には十数枚の硬貨が置かれてあった。


 ジョット達が戦った熊に似た獣の群れは、少し前から周辺の街や村に被害を出していて討伐依頼が出ており、今彼らの前にある十数枚の硬貨はその討伐依頼の報酬である。


《これだけですか? 相場に比べて少なくないですか?》


 馬車の内部に設置している通信機から、アザイアの衛星軌道上にある魅火鎚にいるシャルロットの声が聞こえてくる。この一ヶ月で硬貨の価値はもちろん、周辺の土地にある全ての物資の価格を完璧に把握しているシャルロットが不満の声を上げるとそれをジョットがなだめる。


「そう言うなって。俺達の本当の目的は金稼ぎじゃないんだから」


「そうだね。他国から来た傭兵のフリをして依頼人から色々聞いたお陰でたくさん分かったことがあるしね」


 ジョット達はこのアザイアに来てからアンスタンを使う傭兵を装って行動しており、一ヶ月の間にいくつもの仕事を引き受けていた。その目的は現地で活動するための資金稼ぎもあるが、それ以上に衛星軌道上から観測したり10189番から聞いただけじゃ分からない現地の情報を集めるためでジョットの言葉に同意したカーリーの言う通り、ジョット達はこのアザイアについて様々な情報を得ることができた。


 まずアザイアの文明レベルはジョット達の予想以上に低く、まだ原始的な内燃機関すらも開発されていなかった。そしてその原因の一つはアンスタンにあるようである。


 アザイアの大陸は一度、三百年にアンスタンを開発した国によって統一されたようであるが、その国の国王が死んでから国はいくつにも分かれて、今は数十の国が大陸中にあるらしい。その際に本来ならば最高の軍事機密であるはずのアンスタンの製造方法は広く世間に広まり、多くの人々がアンスタンを戦いだけでなく工事にも使うようになったが、逆にこれがアンスタン関連以外の技術が発達しなくなった理由となったそうだ。


 更にアザイアの文明が発達しない理由はアンスタン以外にも二つあり、その内の一つが「魔物」の出現だった。


 生物が存在する惑星にはたまに、特別な環境の影響などから尋常ではない身体能力を持っていたり、本能的に超能力を使用できる「クリーチャー」と呼ばれる生物が単体、あるいは種族で現れるのだが、このアザイアでは多種多様なクリーチャーが無数に存在していてアザイアの人類はこのクリーチャーを総じて「魔物」と呼んでいた。ジョット達が今回倒した熊に似た獣も魔物の一種で、アザイアでは魔物が起こす災害によって国が滅んだという話がいくつもあり、魔物の存在が人類の発展を阻害している要因の一つなのは間違いないだろう。


 そして文明が発展しない最後の理由は「魔族」との戦いである。


 魔族とはアザイアの人類の一部が進化した、言わば「魔物と化した人類」らしい。魔族は基本的な外見は人類と同じだが人類よりも身体能力が高い上に超能力も使えるようで、アザイアでは人類と魔族が長年戦いあっていた。


 人類と魔族との戦いもアザイアの文明が発達しない理由の一つであり、ジョット達がアザイアに来た目的、星を破壊する威力を持った兵器もこの戦いから生み出されたものなのであった。


 と、アザイアの情報と目的の兵器が作り出された事情は大体把握したジョット達なのであるが、ここで一つ問題があった。


「でも肝心の兵器が何処にあるか全く分からないんだよね」


 マリーの言う通り、ジョット達の目的である兵器の情報は全く聞くことがなく、兵器が何処にあるどころか人類と魔族のどちらが作ったのかすら分からなかったのである。

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