第533話

 ジョットが操っている下半身が車の巨人は「アンスタン」と呼ばれる兵器であった。


 特殊な精製方法で作られた金属の球に己の精神力を送り込むことによって、精神力を送り込んだ人間の本能に応じた形へと変形するという兵器。この世界アザイアではこのアンスタンが最強の兵器であり、アザイアの人類は戦争やモンスターの戦いにアンスタンを利用していた。


「それで結局、このアンスタンの原理は少しでも解析できたのか?」


「それが全然。技術レベルが低い星の兵器とは言え、三百年も改良を重ね続けてきただけあって一筋縄では解析できないね」


 自分のアンスタン、下半身が車の巨人を操りながらジョットが馬車の中にいるマリーに聞くと、彼女はアンスタン解析ができていないにもかかわらず機嫌良さそうに答える。どうやら対象が自分の予想をずっと上回る存在であったため、解析が進まない苛立ちよりも好奇心の方が勝っているようだった。


 ジョット達がアザイアに来てからもう一カ月が経過していた。


 この世界アザイアは10189番の本体である惑星であり、アンスタンは今から三百年前にアザイアの人類が10189番が送り込んだ調査用ゲムマを解析した兵器であった。


 9543番と10189番の頼みを聞いたジョット達は、10189番の本体である惑星アザイアにやって来るとまずは情報収集のために旅の傭兵を装うことにした。その時に10189番から渡されたのがアンスタンの核である金属の球なのだが、これがジョット達を大いに驚かせた。


 何しろ精神波で操る兵器という点ではミレス・マキナと同じなのだが、拳一つ分の金属の球が精神波を送るだけで十メートルを超える鋼鉄の巨人になるだなんて、大清光帝国でもそんな兵器は存在しなかった。それをゲムマの情報を参考にしたと言っても、大清光帝国より遥かに科学技術が劣るアザイアの人類が開発したと言うのだから、驚くなと言うのが無理だろう。


 現に今も、アザイアの衛星軌道上に待機している魅火鎚ではシャルロットが寝食を忘れてアンスタンの解析を行なっている。


「そうか……。皆はどうだ?」


 ジョットはマリーの言葉に返事をすると次に、馬車にいる三人の女性達、マーシャとセレディスとカーリーに話しかける。


「私達の方は大丈夫。もう少しで全部倒せるよ」


「だからジョット、お前は馬車を守っていてくれ。私達の本体がやられてしまっては元も子もないからな」


「それにしてもこのアンスタンという兵器……。ミレス・マキナやアレス・マキナのように操れるのはいいけど動かし方にクセがあるというか、手足の短さが気にならない?」


 マーシャとセレディスは自分のアンスタンを操り、馬車の外にいる熊に似た獣の群れと戦わせながらジョットに返事をして、カーリーもアンスタンを操って戦いながら愚痴にも似た呟きを漏らす。


 カーリーの言う通り、ジョットが操る下半身が車のアンスタンもマーシャ達のアンスタンも、十メートル程の巨体だが頭部や胴体に比べて手足はあまりにも短かく、ミレス・マキナの操縦時と同じく自分の身体そのもののように操ろうとすると違和感が生じるのであった。


 しかしマーシャ、セレディスは元々自国の軍隊の機士以上の実力を持つ機士で、カーリーにいたっては大清光帝国の軍事力の象徴であるアレス・マキナの機士である。彼女達はすぐにその違和感を克服して熊に似た獣の群れを全て倒すのであった。






〜後書き〜

 アンスタンはエスディーで騎士や武者な機動戦士をモデルにしています。

 皆さんはエスディーで騎士や武者な機動戦士は好きですか? 作者は結構好きです。

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