第532話

 この世界アザイアに『それ』が現れたのは今から三百年前だと言われている。


 アザイアに現れた『それ』とは、大小無数の岩と石によって作られた、辛うじて人の形をしていると分かる岩石の巨人。


 岩石の巨人はある日突然、空から複数現れて何をするのではなく、人や人の街を初めとする様々なものを観察しているようであった。そしてやがてある国の軍隊が空から現れた岩石の巨人の一体の捕獲に成功する。


 岩石の巨人の捕獲に成功した国は岩石の巨人の身体を解析し、長い時間をかけてある技術を開発する。その技術とはこれまでのアザイアの歴史を大きく変える程の発明であり、三百年経った現在のアザイアでは、岩石の巨人を捕えた国が開発した技術を使った兵器を戦場の主役となっていたのだった。



 どこまでも広がる草原に一台の馬車があった。


 その馬車は頑丈そうな木材と金属で作られた車内の人間を完全に守る強固な作りをしていたのだが、馬車を引く肝心の馬の姿が何処にも見当たらない。もしかしたら何らかの問題で馬車の馬に逃げられたのかもしれないが、馬車に乗っている者達は特に騒ぎもせず馬を探しに行く様子もなかった。


 そしてしばらくすると、馬車の中にいる一人の女性が双眼鏡を使って窓から外の様子を見て、他の馬車の中にいる者達に話しかける。


「皆、来たよ。依頼にあった『魔物』の群れ」


「やっと来たのか。俺にも見せてくれ」


 馬車の中にいる人間は全部で五人で、その中で男は一人だけで他の四人は女性だった。唯一の男は外の様子を見ていた女性から双眼鏡を受け取ると、自分も窓の外から外の様子を見る。


 双眼鏡を覗いた男が見たのは、こちらへ向かって来る熊に似た十数匹の獣の群れ。熊に似た十数匹の獣はどれも額に背中、前脚に無数の鋭い棘を生やしており、更には五メートル以上の巨体でそれを見た男は思わず呟いた。


「確かにあんな獣を間近で見たら魔物と言いたくなる気持ちも分かるな」


「そうだね。……それじゃあ皆、早速お願い」


『『………』』


 男に双眼鏡を渡した女性は男の言葉に同意した後、馬車にいる他の三人の女性に声をかける。声をかけられた三人の女性達は頷くと、それぞれ金属でできた玉を自分の座席の近くにある筒の中にいれて、その直後に馬車の車体の外側に取り付けらていた装置から、先程まで三人の女性達が持っていた金属でできた玉が空に向けて発射される。


 すると空高く飛ばされた三つの金属の球が膨れ上がり、次の瞬間には十メートル程三体の巨人の巨人となって地面に降り立った。


「……何度も見てもデタラメだよな、あれって」


 男は双眼鏡を使い、三つの金属の球が変化した三体の巨人が熊のような魔物の群れと戦っている様子を見ながら呟く。するとその言葉に双眼鏡を渡した女性が楽しそうに笑いながら答える。


「だから研究のしがいがあるんじゃない? それよりも早くこの場所を守ってよ」


「ああ、分かっている」


 女性に言われて男は目を閉じて精神を集中する。すると馬車の馬を繋ぎ止める部分に設置されていた金属の球が、先程の三つの球と同じように膨れ上がって形を変えて、下半身が四輪の車で上半身が人型という異形の巨人となった。


 下半身が車の巨人は自らの身体と馬車を繋げると、それを確認した女性が男に話しかける。


「それじゃあ、今日もお願い。私達の生命は貴方に預けたからね、ジョット君」


「分かっている。この馬車は、お前達は俺が守るから安心しろ」


 馬車の中の女性、マリーの言葉に同じ馬車に乗っている男、ジョットは力強く頷いて答えた。

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