第449話

「そしてワガハイの攻撃はこれで終わりではないであ~るぞ? それそれそれぃっ!」


 8789番がそう言うと、彼女の言葉に応えるかのようにゲムマ・ランザの槍はアレス・ランザの縦横無尽に飛び回った後に背後から襲いかかろうとする。ジョットはそれを肩のシールドで防ごうとするのだが……。


「……ッ!? くっ!」


 ゲムマ・ランザの槍を肩のシールドで防ごうとして瞬間、ジョットの全身に言い知れない悪寒が走り、次の瞬間ジョットは考えるよりも先にアレス・ランザを急上昇させてゲムマ・ランザの槍を避けた。するとそれを見た8789番が驚きの表情を浮かべる。


「なんと? 防御するかと思ったら直前に回避を選択するとは予想外であ~る。もしや祭夏・ジョットは……むっ?」


 ゲムマ・ランザの槍を避けてもまだ上昇を続けているアレス・ランザを見ながら8789番が何かを言おうとした時、マーシャとセレディスのミレス・マキナがゲムマ・ランザの左右から挟み撃ちにしようと迫ってきていた。


「私達も忘れないでよね!」


「そんなに遊びたいのだったら私達も相手をしてやろう!」


 手に武器を持って迷いなく8789番とゲムマ・ランザに突撃してくるマーシャとセレディスの姿からは刺し違えても相手を倒すと言う決意が伝わってきたのだが、8789番はそれを見ても臆することはなくそれどころか……。


「……ギヒッ☆」


 と、まるで今から獲物に食らいつこうとする猛獣のような笑みを浮かべていた。


「ぬっふっふ……! 今回の遊び戦いの相手は我が宿命のライバル、祭夏・ジョットだけのつもりであったが、ここまで熱烈に遊びに誘われて断るのは無作法と言うものであ~る。よかろう、それでは……あ~そび~ましょ~!」


 8789番は両腕を広げて全身で歓喜の気持ちを表現して叫ぶと、ゲムマ・ランザの身体の一部に変化が生じた。ゲムマ・ランザの両肩にはアレス・ランザのシールドのような盾の形をした部位があるのだが、ゲムマ・ランザはその両肩の盾をノコギリのような刀身の剣に変えると、両手でそれぞれ一本ずつノコギリの刀身の剣を持って構えてみせた。


「今度は無限斬の真似? どれだけジョット君とアレス・ランザが好きなのよ!?」


「それだったらアイツよりも私達の方がジョットを愛しているのだと教えてやればいいだけだ!」


 マーシャの言葉にセレディスが叫び返すと、二人が操るミレス・マキナはゲムマ・ランザの手首や肩を狙って剣を振るう。するとその瞬間、先程と同じ悪寒を感じたジョットがマーシャとセレディスに向かって叫ぶ。


「駄目だ! ソイツに攻撃するな!」


『『………!?』』


 ジョットがマーシャとセレディスに忠告を飛ばした時にはすでに遅く、マーシャとセレディスのミレス・マキナは手に持っていた剣をゲムマ・ランザの身体に当てると同時に機体を僅かに振動させた後、動かなくなった。


「あれは……恐らくあのゲムマ・ランザという分身体は身体の内部で凄まじい振動エネルギーを内蔵しているようだな。それで相手が触れた瞬間に振動エネルギーを伝導させて内部から破壊したといったところか?」


「ぬっふっふ。流石は9543番、ご明察なのであ~る」


 急に動かなくなったマーシャとセレディスのミレス・マキナを見て9543番がその原因を推測すると、8789番が頷き彼女の推測を肯定する。


「このゲムマ・ランザは液体金属の集合体であり、流動体は固形物よりも遥かに振動エネルギーの保存に向いているのであ~る。そしてミレス・マキナは精密な部品の集合体であるから、こうして内部から破壊するのが最も効率的なミレス・マキナの倒し方だというのが、ワガハイの出した結論なのであ~る」


「帝国の機士達が何もできずに倒された理由と悪寒の正体はそれか……! ジーナ、シレイア、カーリー、ベックマン。そこから動くなよ」


 磨き抜かれた防衛本能でゲムマ・ランザの攻撃の驚異を見抜き避けることに成功したジョットは、まだ動くことのできる仲間達に話しかける。


「もう『囲まれている』。下手に動いたらすぐに終わるぞ」

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