第448話

「何アレ? アレス・ランザ!?」


「液体金属は加工しやすいとは言え、よくあそこまで細かく作れたね?」


 蒼く輝く液体が集まって変形した新たなゲムマ。その外見を見てカーリーが驚きの声を上げて9543番が感心したように呟くと、いつの間にかゲムマの頭の上に立っていた8789番が胸を張る。


「ぬっふっふ! どうであ〜るか、ワガハイ自慢の強化型ゲムマ、『ゲムマ・ランザ』の勇姿は?」


「強化型ゲムマ……ゲムマ・ランザだって?」


 8789番が以前から人類の兵器の改良に合わせて、自分もゲムマを強化しようと考えていたというのは9543番から聞いていた。だから8789番が持ってきたゲムマが普通ではないだろうとは思っていたのだが、まさかの外見と名称にジョットは内心で動揺していた。


「その通りであ〜る! このゲムマ・ランザは我が宿命のライバルと戦うためだけに用意した分身体! 故に我が宿命のライバルに敬意を表して、その機体であるアレス・ランザの外見と名称を模したのであ〜る!」


「へぇ……? 相手の機体と似ている機体で戦いを挑むなんて美学が分かっているじゃない。これは中々見所があるわね」


「敵を褒めるな。というか何の美学だよ?」


 8789番の言葉に、魅火鎚のブリッジにいるマリーがまるで同じ趣味趣向を持つ友人を見つけたような笑みを浮かべ、そんなマリーにジョットがツッコミを入れる。


「どうやら祭夏・ジョット以外にも遊び相手が残っているが、まあいいのであ〜る。……では、いくのであ〜る!」


 8789番がそう言うと、彼女の足の下にあるゲムマ・ランザが動き出す。ゲムマ・ランザの背中の右側にはアレス・ランザのビームキャノンによく似た槍のようなものがあり、その槍がゲムマ・ランザの背中から分離したかと思うと次の瞬間、槍はアレス・ランザの機体を貫かんと高速で飛翔した。


「危なっ!? 背中の槍を取り外して攻撃だと!? これって……?」


「その通り! 貴様の愛機を参考にしたのであ〜る!」


 ゲムマ・ランザの背中から放たれた槍を避けたジョットが呟くと8789番が頷き答える。


「我が宿命のライバル、祭夏・ジョットよ。貴様はかつて禁じ手である精神波を遮断する術を使った仲間との遊び戦いでは、背中の武装を分離させて攻撃の起点を増やし、多方面からの同時攻撃を行っていたであ~るな? 仲間はそれに対抗しようと分身体を増やしたがその結果、一体の分身体に使えるエネルギーが減ってしまったせいで各個撃破されたのであ~る。……あれにはワガハイも中々によく考えた戦術だと感心したであ~るぞ?」


「………それはどうも」


 8789番が言うビームキャノンを分離させてからの連携攻撃は、寄せ集めの部品で作った前の機体ではその戦い方以外に選択肢がなかっただけなのだが、思いもしない高評価にジョットはそう答えることしかできなかった。


「そんなアレス・ランザを参考にしたこのゲムマ・ランザは、ある程度破壊力を持った分離を前提にした部位を用意し、遠距離攻撃と多方面からの連携攻撃を可能にさせたのであ~る!」


「……まさか俺の戦い方をここまで評価してくれる奴がいて、しかもそれがゲムマだなんて、喜べばいいのか分からないな?」


 8789番が自慢気に語るゲムマ・ランザの戦い方は、まさにジョットとアレス・ランザが得意とする戦法の一つであり、ジョットは複雑な気持ちで呟いた。

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